デンマークの製薬会社が、2026年の業績見通しをまた引き上げました。肥満症の薬ウゴービと、糖尿病の薬オゼンピックを作っているノボノルディスクです。
■ ノボノルディスクの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月4日
- 売上は792億クローネ、伸びは7%から4%に下がりました
- 英国の錠剤は「勢い」から「正常化」へ、海外のシェアは58%から54%へ
- 米国の錠剤の伸び20%は、大半がBridgeでした
- 見通しは中央で3ポイント上がり、10〜12月は減収を含みます
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※この記事で扱うのは、2026年11月4日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言は記録に残ります。
最高経営責任者の言葉も、3ヶ月で変わりました。
3ヶ月前:「2026年は、ノボノルディスクにとって引き続き厳しい年ですが、刺激的で重要な年でもあります」
今回:「四半期ごとの推移を見れば、私たちが成長の回復局面にあり、それが順調に進んでいることははっきりしています」
ところが質疑に入ると、同じ質問が何度も戻ってきました。来年、売上は伸びるのか。3人のアナリストが聞いて、数字は出ませんでした。もう一つ質問が集中したのは、米国で勢いのある錠剤の伸びの中身です。その大半は、期限つきの制度から来ていました。
その前に、「Bridge」とは何か
この決算を読むには、Bridge(ブリッジ)を知っておく必要があります。
名前から薬や技術を想像するかもしれませんが、どちらでもありません。米国の高齢者向け公的保険メディケアの中で、肥満症の薬に保険が使えるようにした試験的な事業です。2026年7月1日に始まりました。
米国で肥満症の薬を使うとき、支払いは簡単ではありません。ノボの米国責任者は3ヶ月前、肥満症の薬の保険の使いやすさは「依然として乏しい」と言い、米国の錠剤は処方の過半が自費だと説明しました。民間の保険の側も、数量が増えて費用が膨らむことを警戒しています。
日本に置き換えると、公的な医療保険が、高齢者の肥満症の薬だけを期限つきで試しに対象に入れたようなものです。使える人が一気に増えます。ただ、試験が終わった後に続くかは決まっていません。質疑ではアナリストが、この事業の終わりは来年末だと言及しています。
米国の処方の増加には、2つが入っています。市場が広がって増えた分と、期限つきの入口から入ってきた分です。
売上は792億クローネ、伸びは7%から4%に下がりました
- 調整後の売上 792億クローネ(1クローネ24円で約1兆9,000億円。前年同期比+4%。前の四半期は785億クローネ・+7%)
- 調整後の営業利益 317億クローネ(約7,600億円。同+27%。前の四半期は+11%)
- フリーキャッシュフロー 280億クローネ超
- 治療中の患者 約4,800万人(前の四半期は4,600万人超。うち肥満症は560万人で、1年前のほぼ2倍)
- 一株利益 3.79クローネ(会計基準どおりの数字。前年同期比-16%)
売上と営業利益の伸び率は、為替の影響を除いた数字です。一株利益の伸び率は、為替の影響を除いていません。
💡調整後=会社が調整を加えた数字で、会計基準どおりの数字とは別物です。
💡フリーキャッシュフロー=本業で稼いだ現金から、設備などへの投資を引いて手元に残る現金。
調整後の営業利益は伸びたのに、一株利益(最終的な利益を株数で割った数字)は下がりました。会計基準どおりの営業利益は230億クローネで、前年同期よりクローネ建てで3%、為替の影響を除くと9%の減益です。調整後の317億クローネとの差の87億クローネは減損(資産の価値を帳簿上で切り下げること。現金は出ていきません)で、開発中の候補薬ジルチベキマブ(この薬は後でもう一度出てきます)の46億クローネと、製造網の再編の41億クローネです。
金融収支も、前年の18億クローネの黒字から16億クローネの赤字に変わりました。
伸び率は、ほとんどの区分で前の四半期より下がっています。米国は+4%から+1%へ、海外は+10%から+8%へ。海外のGLP-1薬は+13%から+8%へ、海外の肥満症は+37%から+24%へ。
💡GLP-1薬=食欲を抑え、血糖を下げるホルモンの働きをまねた薬。ウゴービとオゼンピックはどちらもこの種類です。
前の四半期の+7%には、過去分の割戻し(会社が保険者などに払う値引き)の調整という追い風が入っていました。肥満症の売上は全社では+16%から+22%に加速しています。患者の純増も、4〜6月の120万人に続いて7〜9月は130万人でした。人は増えているのに売上の伸びは鈍る。この形が、後で出てくる値段の話につながります。
英国の錠剤は「勢い」から「正常化」へ、海外のシェアは58%から54%へ
良くなった言葉の裏で、後退した言葉もあります。海外事業の責任者の、英国でのウゴービ錠についての説明です。
3ヶ月前:「発売からわずか3週間で、約30万人が使い始めたと推計しています」
今回:「浸透には正常化が見え始めています。滞っていた需要が出た強気の発売の後では、自然なことです」
週あたりの販売は、9月の投資家向け説明会で示した6万5,000パックから、今回は「おそらく6万前後」になりました。本人は、競合の発売があったこと、季節的に低い時期であること、11〜12月がピークになることを添えています。英国の肥満症薬でのシェアは、3ヶ月前の「約30%から45%へ」という言い方が、今回は「発売前より10ポイント以上高い」に変わりました。錠剤の中のシェアは約90%と高いままです。
海外全体のGLP-1薬の数量シェアでは、言葉が消えました。
3ヶ月前:「約58%」「シェアの動きが安定し続けており、心強い傾向が見えています」
今回:「54%」
「安定」という語は今回ありません。カナダでは特許切れの後で実現した価格が下がったことも、責任者自身が説明しています。
💡特許切れ=同じ成分の安い薬をほかの会社も売れるようになること。日本の薬局で聞かれる「ジェネリックにしますか」を、元の薬の会社の側から見た話です。
米国の錠剤の伸び20%は、大半がBridgeでした
米国の責任者は冒頭で、ウゴービ錠の数量が前の四半期より約20%、注射剤が約10%伸びたと説明しました。累計の処方は、前回の500万超から800万超になっています。そこにアナリストが「その伸びのうちBridgeはどれくらいか」と聞きました。
「この四半期の20%の伸びは、大半が、ただしすべてではなく、Bridgeの数量です」
直近の週次で、Bridgeの処方は注射と錠剤を合わせて約6万件です。別のアナリストが「Bridgeが無ければ伸びなかったのか」と重ねると、こう答えました。
「Bridgeの寄与が無ければ、20%より小さくなります。Bridgeは、このカテゴリーに間違いなく変曲点を作っています。Bridgeが無ければ、当社だけでなくカテゴリー全体が、5〜10月の期間でほぼ横ばいに見えます」
カテゴリーとは、肥満症の薬の市場のことです。同じ責任者の3ヶ月前の言葉は、Bridgeの出足が良いと話したうえで、こうでした。
「それが持続するのかどうかは、まだ分かりません」
持続するかは「まだ分かりません」と言っていた本人が、今回は「間違いなく変曲点を作っています」と言いました。変曲点とは、流れが変わる節目のことです。ただ、語ったのは変化が起きたことで、持続するとはまだ言っていません。Bridgeを除くと、市場は5〜10月でほぼ横ばいに見えます。本人はこの横ばいを季節性と重ねて説明していて、消費者の動きは10〜12月に始まり、年初の新年の決意の頃に最も高まると言っています。5〜10月だけで、市場の力を決めることはできません。答えはこの年末年始の処方に出ます。
米国の錠剤の競争については、指標が替わりました。3ヶ月前は「錠剤の市場の約90%」、今回は「新規処方の約80%」です。
💡新規処方=その薬を新しく始めた人の処方。継続分も含めた全処方とは別の数字です。
物差しが違うので、90から80へ落ちたとは言えません。ウゴービ全体の新規処方のシェアは同じ物差しで、7月の約60%から今回は「50%超」と表現されました。
見通しは中央で3ポイント上がり、10〜12月は減収を含みます
通期の見通しは、調整後の売上の伸びも営業利益の伸びも、為替の影響を除いて、3ヶ月前は「0%からマイナス6%」、今回は「マイナス2%からプラス2%」です。
中央で-3%から0%へ、3ポイントの引き上げです。上げた先は、それでも前年並みです。海外の増収に対して、米国は通期で減収の想定のままです。フリーキャッシュフローの見通しは600億〜700億クローネに上がりました。
財務責任者は質問に答えて、「年初来で2%伸びていて、中央はゼロです」と言いました。四半期を均等と仮定して単純に計算すると、10〜12月は中央で約6%の減収です。理由として挙げたのは、前年の10〜12月に米国の割戻しの比較で30億クローネの好影響があったことと、カナダを中心とした特許切れの影響です。
💡コンセンサス(市場の予想)=アナリストたちの予想の平均。会社が「去年と同じくらい」と言い、周りが「少し減る」と見ていたなら、同じ横ばいでも良い知らせになります。
市場の予想の平均は、2026年の売上が約3,037億クローネで、2025年の売上より約1.7%少ない水準です。会社の中央は0%なので、会社の見通しが市場の予想を小幅に上回っている可能性があります。ただ、この平均が今回の決算を反映した後の数字とは限らないので、言えるのはその程度です。2027年の予想は約3,076億クローネで、2026年の予想より約1.3%多い水準です。
ウゴービの価格下落は30〜35%、数量で埋める競争です
この会社で今起きていることを一言にすると、数量で値段の下落を埋める競争です。
値段の側は、米国の責任者がはっきり数字を出しました。オゼンピックは年10〜15%の価格の下落という見方を維持していて、今四半期はそれより良かったと説明しています。ウゴービは今四半期に30〜35%の下落で、今後は「それか、少し良いくらい」を見込んでいます。定価も2027年1月1日に下げます。米国政府との薬価の合意の影響も、見通しに含まれています。
それでも費用を負担する側は慎重です。米国の責任者は、ペプシやスターバックスのような大企業の雇用主も、費用の増加を見ると反対に動くと認めました。数量と価格の掛け算で膨らむ費用をどう抑えるかが、保険を広げるときの壁になっています。
数量の側には、米国と海外の両方に材料があります。
- 海外の注射剤:ウゴービの注射剤は、年初来で数量が約70%増。海外事業を今年引っぱってきたのは錠剤ではなくこちらです
- 海外の錠剤:発売は7市場。「20市場に広げる時期」を来年末から来年前半へ前倒ししました。ドイツでは発売6週で約10万パック
- 糖尿病:1〜3月に80万人減った患者が、直近2四半期で100万人増に転じました。オゼンピックの錠剤の新規処方は、60%超がGLP-1の治療が初めての人です
- 新薬:肥満症のカグリセマと血友病のフリーヘムゴの発売を、承認を前提に準備しています
カグリセマは、2型糖尿病の人を対象に各成分1mgとチルゼパチド(イーライリリーの薬)5mgを比べた試験で、体重の減少が12.4%対9.1%でした。ただ、低い用量どうしの比較です。3ヶ月前に報告した高い用量どうしの試験では、血糖の指標(HbA1c)で、チルゼパチドに劣っていないと言える結果を示せませんでした。
最高経営責任者は、来年のプラス材料を3つ(錠剤の浸透、Bridgeの通年化、2つの新発売)、マイナス材料を3つ(特許切れの通年化、中国、割戻しの追い風の剥落)挙げました。通年化とは、年の途中で始まった変化の丸1年分が、前年との比較に入ることです。中国は今も続く逆風で、来年はそこに中国での特許切れも加わると説明しています。逆風そのものについては、こう言っています。
「クリスマスが過ぎて新しい年になったからといって、なくなるものではありません」
2030年までの目標なら、最高経営責任者は冒頭で言葉にしています。年平均で1桁半ばの売上成長で、「業界の他社と同程度」です。その手前の2027年の数字が、質疑で聞かれ続けました。
3人に聞かれた2027年と、今回語られなかったこと
最初に質問したアナリストは、2027年に増収へ戻れるのか、2月に出す見通しにプラスの数字が入る確信はどれくらいかと聞きました。3ヶ月前の説明会でも同じ人が同じ論点を聞いていて、そのときの財務責任者の答えは「まだ見限らないでください」でした。
今回、最高経営責任者は先ほどの3つと3つを示して、計算は各自でと渡しました。2人目のアナリストは「来年の基準は通期0%か、直近の成長率か」と確認しようとして、質問数の制限で回答の対象から外されます。3人目は、その質問をそのまま聞き直しました。答えはこうです。
「ですから、また数字をお伝えすることはしません。今日は見通しを出しません」
公平に書くと、2027年の見通しを2月の通期決算で出すのはこの会社の通常の手順です。財務責任者の交代も重なっています。27年勤めた現職は年末で退任し、今回が最後の説明会でした。後任は、皮膚科の企業ガルデルマの財務責任者を務めてきた人です。それでも、下期の成長率と通年の0%のどちらを起点に見ればよいのかという点は、聞かれたまま残りました。Bridgeが終わる2027年末の後についても、答えは出ませんでした。米国の責任者は「2027年末の政治環境がどうなっているかを予測するのは難しいです」と答え、高齢者の利用が増えれば継続への政治的な圧力になる、と続けるに留めました。
3ヶ月前に語られていて、今回の説明会では出てこなかったものが4つあります。
- 血液の難病向けの候補薬エタボピバットの申請:前回は「2026年10〜12月期に欧米で申請する予定どおり」。その四半期に入った今回、言及はありません
- ジルチベキマブの2つの試験(アルテミス、ヘルメス):前回は「2027年前半に結果」。1本目の心血管の試験が期待どおりにならなかった直後の説明でした。今回の説明会では試験名も薬の名前も出ていません。一方で決算資料は、ヘルメスが主要な目標を達成せず、データ監視委員会の勧告を受けて投与を止め、試験を閉じると記しています。詳しい結果は、2027年前半の予定のままです
- 米国のウゴービ錠の週次処方と、未治療の比率:前回は「週26万7,000件」「約80%がGLP-1の治療が初めて」。今回の冒頭説明には出てきません
- 80億クローネのコスト削減が「計画より先行」という表現:今回は使われていません
開発の担当者は冒頭で、9月の投資家向け説明会で全体を更新したので今日は要点に絞ると断っています。エタボピバットの申請もアルテミスの結果も、決算資料の開発予定表には残っています。語らなかったから中止、とは言えません。ただ、ヘルメスは閉じていました。そのことも46億クローネの減損も説明会の発言には出ず、質疑でも質問が出ませんでした。
調整後の営業利益の+27%は、大半を比較の問題として読むべきです。前年の7〜9月に約90億クローネの変革費用が計上されていて、財務責任者自身が「有利な比較基準」と説明しました。調整後の今期にも、約35億クローネの一時的な費用が入っています。割戻しの追い風についても、最高経営責任者は来年は同じ程度を見込めないかもしれないとしたうえで、「それは分かりません」と言っています。Bridgeは期限つきで、英国の初期の急増は滞っていた需要でした。一方で、患者の増加と錠剤の市場の広がりそのものは、一度きりの話ではありません。
Bridgeの答えは年末年始に、来年の数字は2月に出ます
Bridgeが市場の流れを変えたと、米国の責任者は言い切りました。持続するとは、まだ言っていません。患者の増加という形で回復は数字にも出ています。ただ、米国の錠剤の伸びの大半を作った制度には期限があり、値段は下がり続けています。
次に見るのは、2027年2月の通期見通しで売上の伸びの中央がプラスに入るか、マイナスになるかです。週に約6万件のBridgeの処方が増え続けるか、減り始めるかも見ます。新年の決意の時期に、Bridgeの外の市場が動くかどうかも分かります。
エタボピバットの申請は、前回、2026年10〜12月期の予定だと言っていました。その四半期が終わった2月の説明会で、申請したと言うのか、また語らないのか。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。また、医薬品の効能・安全性を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。