アーム決算の内容:自社チップは発注書が付いて最大20億ドルへ、ロイヤルティは見通しに届かず8%増【ARM・2026年7〜9月期】

設計図を貸すだけだった会社が、自分のチップを売り始めます。

3ヶ月前、そのチップについて財務責任者が用意した説明で述べたのは「10億ドルを超える達成への自信」まででした(質疑では20億ドルを次の目標に挙げています)。今回は、複数の顧客から「発注書」を受け取ったと言いました。

同じ説明会で、もう1つの数字が会社の見通しに届きませんでした。チップが1個売れるごとに入る使用料(ロイヤルティ)の伸びです。3ヶ月前の見通しは10%台前半で、実績は8%でした。会社はこれを「第2四半期として過去最高」と紹介し、見通しとの差には触れていません。

会社の名前はアーム。スマートフォンのチップの多くに、この会社の設計が使われています。筆頭株主はソフトバンクグループです。

■ アームの決算説明会の内容(要点)

  • 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
  • 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月4日
  • 売上は27%増、ただしライセンスは50%増、ロイヤルティは8%増でした
  • 自社チップは「自信」が「発注書」になりましたが、20億ドルには「最大」が付きます
  • もう1つの柱、データセンターのロイヤルティには「今後数年3桁成長」の確信を語りました
  • スマートフォンを含むエッジAIは「伸び続けている」が「横ばい」に変わりました
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※この記事で扱うのは、2026年11月4日に行われた、2026年7〜9月期(同社の会計年度では2027年度の第2四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。

💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。

目次

その前に——アームは「半導体を売らない半導体の会社」でした

アームは半導体の会社と呼ばれますが、工場を持っていません。これまで売ってきたのも、チップではなく設計です。

インテルやAMDは、自分で設計したチップを自分の製品として売ります。アームは、その設計を他社に使わせます。料理にたとえるとレシピの会社で、お金の入り方は2通りあります。

  • ライセンス=レシピの使用権の料金。チップの開発が始まるときに入ります
  • ロイヤルティ=そのレシピの料理が1皿売れるごとの歩合。量産が始まってから入ります

手元のスマートフォンの中にも、たいていアームの設計のチップが入っていて、売れた分だけこの歩合が入ります。この四半期に各社が出荷したアームの設計のチップは、初めて100億個を超えました。

この2つを分けて見ると、今回の決算が読めます。ライセンスは時期で大きく振れる前金で、ロイヤルティは今まさに売れている量を映します。今回は、前金が大きく増えて、歩合の伸びが鈍った回でした。

そこへ3つ目が加わります。AGI CPUという自社チップです。レシピの会社が、自分で料理を作って売り始める話です。名前からは人間並みの知能を連想しますが、これは製品名で、経営陣が狙っているのはAIエージェント(人の代わりに一連の作業をこなすAI)を動かす計算です。

💡CPU=コンピュータの中で全体の処理を受け持つ半導体。AIの計算を専門に担うGPUなどとは役割が違います。

レシピと違って材料の仕入れが要るので、今回の質疑には供給と粗利率の質問が並びました。

💡粗利率=売上から材料費など製品の原価を引いた残りの割合。レシピの使用料は材料費がほとんど掛からないので高く、自分で作る料理は材料代のぶん下がります。

売上は27%増、ただしライセンスは50%増、ロイヤルティは8%増でした

  • 売上 14億4,000万ドル(前年同期比 +27%)。20%超の伸びは5四半期連続
  • ライセンスなど 7億7,300万ドル(+50%)
  • ロイヤルティ 6億7,000万ドル(+8%)
  • 調整後の一株利益 0.52ドル(+33%)、調整後の営業利益率 44.2%(+3ポイント)

💡一株利益=会社の利益を株式の数で割った、1株あたりの利益。調整後=会社が一時的などと考える項目を除いた数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物です。

売上は3ヶ月前の見通し(13億8,000万ドル、上下5,000万ドル)の上限も超えました。一株利益も、見通しの上限0.51ドルを1セント上回っています。

3ヶ月前の見通しの中身は、ライセンスが約30%増、ロイヤルティが10%台前半の増でした。結果は上と下に分かれました。財務責任者によれば、ライセンスは想定より約1億ドル多く入っています。一方、売上の上振れは見通しの中心から6,000万ドルです。単純に引き算すると、残りの約4,000万ドル分はロイヤルティ側で足りなかった計算になります。

次の四半期も同じ形です。10〜12月期の売上見通しは15億4,000万ドル(上下5,000万ドル)で約24%増。そのうちライセンスは50%強の増で、ロイヤルティは前年比で1桁台前半の増です。全社の伸びの大半をライセンスが作ります。

自社チップは「自信」が「発注書」になりましたが、20億ドルには「最大」が付きます

3ヶ月前:「10億ドルを超える達成への自信は、この90日で増しました」
今回:「この90日で、複数の顧客から発注書を受け取り、サプライチェーンの各社と供給契約を結びました。これにより、2027年度と2028年度を通じて最大20億ドルの達成に、より自信を持っています」

20億ドルは、1ドル150円で計算すると約3,000億円。この四半期の全社売上(14億4,000万ドル)を超える枠です。期間は2028年3月までの2年度分で、出荷は2027年1〜3月期に始まる計画なので、実質は約5四半期です。商用の出荷はまだ始まっていません。

金額の見出しほど、中身は動いていません。3ヶ月前の時点でCEOは「需要はいまや20億ドルを超えています」と言っていました。今回、需要の額は更新されませんでした。増えたと言えるのは、その裏づけです。 しかも今回の言い方は「最大(up to)」で、会社は次回の決算でまた更新すると述べています。

発注書と顧客について分かっているのはここまでです。

  • 期間:2027年末まで続く発注書を、複数の顧客から受け取った
  • 顧客:自社チップの筆頭顧客はメタ。ほかにオラクルが2027年に自社のクラウドで提供する計画で、CEOは「メタ以外にも複数の顧客が出てきます」と言っています
  • 出していないもの:顧客ごとの金額と、発注書を出した顧客の名前(自社チップの顧客としては、3ヶ月前の説明会でOpenAIやCloudflareなどの名前も出ています)

その先の数字は、今回は動きませんでした。財務責任者は当初の計画を、2028年度までの2年度の次の年度に約20億ドル、さらにその次の年度に約50億ドルだったと振り返り、更新はおそらく来年前半のイベントで、と述べました。この約20億ドルは1年度の数字で、さきほどの最大20億ドルとは別です。CEOは、コア(CPUの中の計算の単位)の数が128から256、500超へ増えていけば、チップの単価も上がると説明しています。

もう1つの柱、データセンターのロイヤルティには「今後数年3桁成長」の確信を語りました

レシピの商売のほうで、いちばん強い言葉が出たのはデータセンターです。

「データセンターのロイヤルティが今後数年にわたって3桁成長することに、高い確信を持っています」

3桁成長とは、1年で2倍以上になるということです。当期の実績は「前年比で倍増」でした。3ヶ月前の「倍を超えた」から、わずかに弱い言い方になっています。

CEOの挙げた理由は2つです。

1つ目はシェアです。 大手クラウド各社のサーバーでアームの設計が占める割合は、2024年の15%から2025年に50%超へ増え、2026年末には60%を超える見込みだといいます。アマゾンのGraviton、グーグルのAxion、マイクロソフトのCobaltは、どれもアームの設計を使った自社チップです。

2つ目は置き換えです。 AI用の半導体につないで全体を束ねるCPUが、インテルやAMDの系統(x86と呼びます)からアームへ移っています。CEOはエヌビディアの次世代機と、グーグルの例を挙げました。

データセンターのロイヤルティの過半を占めるのは、アマゾン、グーグル、マイクロソフトに、急増中のエヌビディアを加えた4社です。集中の度合いを数字で聞かれましたが、比率は出ませんでした。

データセンターの外では、自動車やロボットを含む「フィジカルAI」のロイヤルティが50%増で、運転支援や車載の情報システムが牽引しました。パソコンでは、アーム搭載機が世界出荷の約20%に達したといいます(パソコンのロイヤルティはこのあと見るエッジAIに入ります)。

それでも全社は8%増です。全ロイヤルティに占めるデータセンターの割合を聞かれた財務責任者は、計算はしていないと断ったうえで「3分の1には届かないと思います。ただ、近いうちに届きます。今年度末までかは分かりません」と答えました。データセンターの倍増、フィジカルAIの50%増、エッジAIの横ばいがそのとおりなら、単純に計算して、全社が8%増に収まるのはデータセンターの割合が今も15%未満のときだけです。「近いうちに3分の1に届く」という財務責任者の話とは開きがあります。分野別の金額は開示されていないので、どの数字にどれだけ丸めがあるのかは確かめられません。

スマートフォンを含むエッジAIは「伸び続けている」が「横ばい」に変わりました

3ヶ月前:「スマートフォンの最終市場は軟調ですが、エッジAIのロイヤルティの売上は伸び続けています」
今回:「エッジAIのロイヤルティの売上は、前年比でおおむね横ばいでした」

エッジAIは、スマートフォンやパソコンなど手元の機器の分野です。3ヶ月前のCEOは、スマートフォン市場が2桁減と予想される中でも、スマートフォンのロイヤルティは2桁伸びる見通しだと話していました。

スマートフォンの弱さの原因は、半導体メモリの値上がりです。中価格帯と低価格帯を中心に、スマートフォンの台数が押し下げられています。新しい世代の設計は1個あたりの料率が高いので、台数の減少を補って横ばいまで支えました。

ロイヤルティ全体の伸びは、前の四半期の +22%、今回の +8%、次の四半期の見通しの1桁台前半と続きます。次の四半期の見通しについて、財務責任者はスマートフォンの弱さに加えて、前年の比較対象が高いことを理由に挙げました。来年1〜2月ごろからはその比較が楽になり、来年のスマートフォン台数は横ばいが前提だ、という説明です。

「20%超」は繰り返されず、上振れの中身はライセンスでした

今回は出てこなかったものがあります。

  • ロイヤルティの中期の伸び:3ヶ月前は「20%超の成長は、まだ十分に生きていると思います」と2028年度と2029年度について述べ、今年度も10%台後半に近いと話していました。今回、全社のロイヤルティの今年度や中期の伸びとして語られた数字はありません
  • 見通しに届かなかった理由:スマートフォンが弱い理由と、次の四半期の見通しが低い理由は語りました。会社の書面も、8%増の抑え要因としてメモリ価格を挙げています。ただ、3ヶ月前の見通しの10%台前半より低くなった理由としての説明はありません
  • 中国:3ヶ月前は自社チップの新規顧客を「アメリカと中国の複数の顧客」と言っていました。今回の説明会で「中国」という語は出てきません
  • 市場の予想との比較:3ヶ月前のCEOは「期待を上回る見通しを出している」と言いました。今回その言葉はありません

年換算契約額も、+13%から+12%になりました。契約の額を1年あたりにならした数字で、会社はライセンスの実勢を見る物差しと呼んでいます。3ヶ月前に添えていた「ライセンス売上の成長の長期の期待を上回っている」も消えました。

今回の上振れを作ったライセンスは、時期で動くお金です。会社自身が「大型契約の時期と会計処理で四半期ごとに大きく変わる」と言っています。7億7,300万ドルが新しい水準なのかと聞かれた財務責任者の答えは、次の2四半期は増えるとしたうえで「そう言えるかは分かりません」でした。ただ、案件の見込みについては「驚くほど強く、想定を上回っています」と続けています。7億7,300万ドルのうち2億900万ドル(約27%)はソフトバンクとの契約です。

3ヶ月前の四半期は、既存顧客の長期ライセンスの更新が挙がっていました。今回の財務責任者は、見込み案件の強さについて「更新ではなく、追加の、新規の案件」で予想しにくいと説明し、ここ数年と似た状況だと言っています。年度の初めには、今年の主役はロイヤルティで、ライセンスの伸びは一巡したかもしれないと考えていたそうです。逆になりました。ただ、このライセンスがロイヤルティになるのは「おそらく12ヶ月、18ヶ月、24ヶ月先」です。今回の前金が歩合に変わるまでの間は、見通しの数字を前金が支えることになります。

自社チップにも、聞かれて解決しなかった点が残っています。

供給です。 AMDとの規模の差を聞かれたCEOは「もっともな質問です」と認め、「これは私たちの最初の製品です」と言いました。TSMC(半導体の受託製造の最大手)やメモリ各社との長年の関係で確保を進めていると説明しましたが、確保済みの数量は出ていません。業界全体の供給は逼迫するだろう、とも言っています。

粗利率です。 3ヶ月前は「30%台後半、もしかすると40%台前半」でした。今回の財務責任者は同じ言い方をした直後に、「この版については30〜40%のあたりで考えてください」と言いました。前の言い方と数字が合わないので、言い間違いの可能性も含めて、次の説明会で確かめたい点です。50%へ届く時期は、3ヶ月前は「今後2年ほど」、今回は「おそらく次の版で」という言い方でした。次の版はCEOの言う18〜24ヶ月の周期なら1年半〜2年後で、時期としては食い違いません。メモリなどの費用増が粗利に圧力をかけることはCEOも認めており、価格を上げる余地があるので「その点はそれほど心配していない」と答えました。

性能です。 性能の比較試験について、CEOはAMDの前世代の製品との比較だと認めました。最新の製品との直接の数字は示していません。第2世代の日程も、この市場は18〜24ヶ月の周期で進むという説明までで、ネットワーク機能の追加も「今回発表できるものはありません」でした。

お金も掛かっています。調整後の営業費用は7億7,400万ドル(+19%)で、財務責任者は使い道として、技術者の増強や次世代の設計と並べてこの自社チップの製品群を挙げました。次の四半期は約8億2,500万ドルの見通しです。投資を高い水準に置いてもフリーキャッシュフローを11億ドル生んでいる、というのが財務責任者の説明です。11億ドルは直近12ヶ月の数字です。前年の同じ時点からは2%増ですが、3ヶ月前の14億ドルからは減りました。7〜9月期の単独の数字が1億1,000万ドルと、前年同期の4億1,100万ドルから73%減ったためです。単独の数字が減った理由は語られていません。

💡フリーキャッシュフロー=事業で稼いだ現金から設備投資などを引いた、手元に残る現金。

次の説明会で確かめるのは、発注書が出荷へ進むかどうかです

先の話は裏づけが増えました。目の前のロイヤルティは鈍っていて、見通しとの差の説明はありません(会社の書面は8%増の抑え要因としてメモリ価格を挙げています)。悪い方向に動くとすれば、次の形です。

  • 2027年1〜3月期とした自社チップの最初の出荷が遅れる
  • 「最大20億ドル」が引き下げられる
  • 全社のロイヤルティが、見通しの1桁台前半を下回る

データセンターの「3桁成長」が取り下げられれば、もう1つの柱が揺らぎます。

良い方向は、比較が楽になる来年の前半に、ロイヤルティの伸びが実際に戻ることです。ただ、そこには比較の効果も混ざります。今回の前金が歩合に変わったかを確かめられるのは、財務責任者の言う12〜24ヶ月先です。来年前半のイベントで当初計画の約50億ドルが引き上げられれば、会社の約束そのものが変わります。

次の説明会では、見ておきたい言葉がまだあります。3ヶ月前に「まだ十分に生きている」と言った、ロイヤルティの20%超です。戻ってくるのか、別の言い方に変わるのか。


自社チップの本格的な売上はこれからで、発注書が出荷になり、ライセンスが歩合になるまでには、まだ時間差があります。動くたびに、同じ言葉を並べ直して追っていきます。


※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。

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