アイオンキュー決算の内容:256量子ビット機の2027年分は完売、ただし何台分かは言わなかった【IONQ・2026年7〜9月期】

量子コンピュータを作る会社が、来年の生産枠をもう売り切ったと言いました。

3ヶ月前、同じ会社はこの機械について「2027年に据え付けを始める予定」と話していました。9月に製品として売り出した後の今回は、「2027年分は完売」です。一方で、いちばん聞きたい数字は、それに関わる質問が続いても出てきませんでした。

アメリカのアイオンキュー(IonQ)です。量子コンピュータの専業としては大手で、計算機本体のほか、量子技術を使った暗号・セキュリティや、原子時計などのセンサーも売っています。この四半期の途中で半導体の受託製造会社スカイウォーター(SkyWater)の買収を完了し、チップの工場まで自前で持つ会社になりました。

■ アイオンキューの決算説明会の内容(要点)

  • 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
  • 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月5日
  • 3ヶ月前は「据え付けを始める予定」、今回は「完売」
  • 売上は約4.4倍、ただしその半分近くは買った会社の売上です
  • 見通しは9月に続いて再び引き上げ
  • 答えなかったこと、言わなくなったこと
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※この記事で扱うのは、2026年11月5日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。

💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言はそのまま記録に残ります。

目次

その前に——量子コンピュータを「売る」とは、何を売っているのか

「量子コンピュータ」と聞くと、まだ研究室の中だけにある未来の機械を思い浮かべるかもしれません。実際には、もう1台ずつ値段がついて売られています。

ふつうのコンピュータは、0か1のどちらかを表す「ビット」で計算します。量子コンピュータは、0と1を重ね合わせた状態を持てる「量子ビット」で計算します。問題によっては、ふつうのコンピュータでは時間がかかりすぎる計算を短くできる、と期待されている機械です。

量子ビットの作り方はいくつかあります。よく知られているのは、超電導の回路を絶対零度近くまで冷やす方式です。アイオンキューが使っているのは別の方式で、電気を帯びた原子(イオン)を真空の中で宙に浮かせて閉じ込め、その1個1個を量子ビットとして使います。「捕捉イオン方式」と呼ばれます。イオンを閉じ込めておくのはチップの上の電極で、そのチップを作るのが、今回買ったスカイウォーターの工場です。

買う側は、国の研究機関や大学、データセンターの事業者です。日本で言えば、神戸の理化学研究所にあるスーパーコンピュータ「富岳」を思い浮かべると近い形です。研究所が自分の建物に大きな計算機を据え付けるように、量子コンピュータも1台ずつ買われて、客先に設置されます(インターネット越しに時間貸しで使う形もあります)。

ここが、この記事の結論に効きます。1台ずつ売る機械は、作って据え付けた時期に売上になります。 だから「2027年の生産枠が完売」は、2027年の売上の道筋が見えたという意味になります。ただし、何台を、いくらで売ったのかが分からなければ、その売上の大きさは分かりません。今回の決算は、まさにその形をしていました。

3ヶ月前は「据え付けを始める予定」、今回は「完売」

経営陣の言い方は、3ヶ月ではっきり変わりました。

新しい256量子ビットの機械について。

3ヶ月前:「256量子ビットの技術を確信をもって実証する段階に進んでおり、2027年にシステムの据え付けを始める予定です」
今回:「実際のところ、2027年の256の生産枠はすべて売り切りました」

質疑応答では、社長がさらに一歩進めて「2028年に向けても、受注の帳簿がかなり余裕をもって埋まり始めている」と話しています。256量子ビット機(製品名はスペリオン256)の最初の顧客としては、エヌビディア、米フロリダ国際大学、英ケンブリッジ大学、ホライズン・クオンタム、韓国のSDTの名前が挙がりました。SDTとは3,300万ドルの契約を結んでいます。

米国防の研究プログラムについて。

DARPA(米国防高等研究計画局)が、どの量子コンピュータが実用の規模に届くかを見極める選抜プログラムを進めています。3ヶ月前、この件を聞かれた社長の答えはこうでした。

3ヶ月前:「DARPAより先に、私たちから何かを発表することはできないと思います」
今回:「アイオンキューがこの歴史的な節目を達成したと言えることを誇りに思います。関連するプログラム価値が最大3億ドルの、このプログラムの最終段階に進んだ、唯一の捕捉イオン方式の会社です」

10月7日のDARPAの公表を受けて、「発表できない」は「達成した」に変わりました。ただし3億ドルは「最大で」の上限で、受け取りが決まった金額ではありません。

複数の製品を買う顧客について。 前の四半期は売上の約25%(その前の四半期は約35%)が複数製品の販売でしたが、今回は自社部門の売上の40%超が、複数の製品を買う顧客からのものでした(数え方が同じかの説明は無く、そのまま比べることはできません)。

そして、前の四半期には無かった言葉が財務責任者から出てきました。

「売上の成長と、利益を出すことの両方への道筋を描き始める時期でもあります」

「利益」という言葉が、売上の成長と同じ文に並びました。

売上は約4.4倍、ただしその半分近くは買った会社の売上です

  • 売上 1億7,380万ドル(前年同期比 +336%、6四半期連続で過去最高)
  • うち自社の量子事業 9,030万ドル(前年同期比 +127%)
  • うちスカイウォーター 8,350万ドル(買収後の2ヶ月分)
  • 調整後EBITDA −1億3,360万ドル(赤字)

💡調整後EBITDA=本業でどれだけ稼いだかを見るため、減価償却や一時的な費用などを除いて会社が示す利益(non-GAAP)。会計基準どおりの数字とは別物です。

+336%という数字は強烈ですが、売上1億7,380万ドルの半分近く(8,350万ドル)は、四半期の途中で買ったスカイウォーターの売上です。伸びた額で見れば6割強がこの分です。もともとの量子事業だけで見ると+127%。それでも倍以上ですが、量子事業そのものの伸びはこちらです。

財務責任者は「この結果は、私たち自身の社内の想定さえ上回りました」と話しています。

純利益は5億6,400万ドルの黒字でした。ただ、ここは読み違えやすいところです。この中には8億9,600万ドルの、現金の動かない評価益が入っています。会社が過去に発行したワラント(株を決まった値段で買える権利)の時価が変わったことで、帳簿の上に出た利益です。財務責任者自身が「この利益は事業の実績を反映していません」と念を押しています。評価益を除けば、純利益は赤字です。

注文の残高も積み上がりました。

  • 受注残(RPO)は連結で12億ドル(1ドル150円で約1,800億円)
  • うち自社部門は4億8,500万ドルから6億8,900万ドルへ増加。この四半期に新しく結んだ契約が約2億9,000万ドルで、そのうち約1億8,000万ドルが量子コンピュータ
  • 残りの4億7,900万ドルは、買収したスカイウォーターの受注残

💡RPO(残存履行義務)=契約済みで、まだ売上として計上していない金額。「これから売上になる予定の注文の束」に近いものです。

自社部門の四半期の売上が9,030万ドルなのに対し、同じ部門で同じ3ヶ月に2億9,000万ドルの新しい契約を結んでいます。売上より速く注文が増えている、という意味です。

見通しは9月に続いて再び引き上げ

会社は通期の売上見通しを、4億5,000万〜4億6,000万ドルから、5億500万〜5億1,500万ドルへ引き上げました(1ドル150円で、中央値の5億1,000万ドルは約765億円)。前回の見通しは9月の投資家向け説明会で出したもので、そこからさらに2ヶ月で上げています。

💡ガイダンス=会社が自分で出す業績予想。比べる相手は前回の自分だけでなく、市場の予想です。

11月6日に取得した市場予想の平均(13人)は約4億6,000万ドルで、新しい見通しの中央値はそれを約1割上回ります。量子コンピュータの売上の通期の伸びも、前回(前の四半期はオーガニック売上として約100%と話していました)から「110%超」へ上げました。

1〜9月の実績を引くと、10〜12月期の見通しは約1億8,600万〜1億9,600万ドル。今回の1億7,380万ドルから、もう一段の増収を見込んでいることになります。調整後EBITDAの赤字は10〜12月期に縮むと会社は見ていて、市場予想の「−1億2,700万ドルは不合理ではない」と言っています。

ただし、2027年の見通しは出していません。完売した年の売上が、まだ数字になっていないということです。

答えなかったこと、言わなくなったこと

質疑応答では、2027年の256量子ビット機の売上の大きさに関わる質問が続きました。「価格×台数で見積もればよいか」、「完売なら生産能力が足りなくならないか、年に10台以上を作る量産にどう移るのか」、音声が途切れたアナリストからの「2027年に6台を納めると言ったのか」という確認。どれにも数字は出ませんでした。財務責任者は台数×価格には踏み込まないとしながら、「256も、いまの機種(Tempo)と同じように売るシステムです」と付け加えています。

財務責任者:「2027年については、売上や見通しの観点ではまだ話していません」
社長:「はっきりさせておきたいのですが、2027年の数字はお伝えしていません」

「完売」と言える会社が、完売した中身の大きさは言わない。生産枠を売り切ったことと、その枠が何台分かは、別の話として扱われています。社長はこれより前の質問で、受注が2028年まで埋まり始めていると話していました。台数の質問の後には、自社の工場を持っているので大量生産に移れることを強調しています。

前の四半期に語っていて、今回は出てこなかったこともあります。

  • 3ヶ月前の社長の「2027年に1万量子ビットへの道を加速している」は、今回の説明会では経営陣の口から出ませんでした。1万に触れたのはアナリストの「(こうした顧客は)1万の機械でも優先順位が先になるのか」という質問だけで、財務責任者は「ええ、もちろん」と答えました。同じアナリストに256量子ビット機の開発の状況を聞かれた社長は、更新は9月の投資家説明会で前倒しで済ませたとし、「時間軸はこの2ヶ月と変わらない」と話しています
  • 防衛分野のアンドゥリルやサンディアと結んだ覚書(MOU)は、今回言及がありません。覚書が正式な契約になったという報告もありません
  • 前の四半期に「オーガニック(買収を除いた)売上は+132%」と出した数字は、今回は出てきませんでした。代わりに出たのが自社部門の+127%で、同じ物差しかどうかの説明は無く、そのまま比べることはできません

そのほかにも、調整後EBITDAに含まれる統合費用の額を聞かれて「詳しくは提出書類に」、クラウド経由の利用の伸びを数字で聞かれて「どちらも伸びています」と、数字の出ない答えが続きました。

数字を飾ったものも整理しておきます。売上の伸びの6割強は買収したスカイウォーターの分で、純利益は評価益で黒字になっています。今回の費用には買収に伴う一時的な管理費が約4,000万ドル入っていて、これは調整後EBITDAからは除かれています。10月には20億ドルを調達して手元資金は約37億ドル(10月の調達を反映した試算ベース)になりましたが、これは売上ではありません。スカイウォーターの半導体工場の売上には、独インフィニオンとの複数年の「引き取り保証つき」の供給契約が支えている部分があり、安定してはいますが、量子コンピュータの需要とは別のものです。

なぜ今、この会社に注文が集まるのか

注文を出しているのは、主に3種類の買い手です。

1つ目は、国と国防です。 DARPAの選抜で最終段階に残ったほか、次世代の原子時計25台から始まる2,800万ドルの契約も新しく受けています。社長は、最終段階のプログラムによって、複数の世代の量子コンピュータが米国の国防当局の手に渡ることが想定されていると説明しました。国の安全に関わる計算機は、国内で作れることが重視されます。チップの工場を自分で持つことが、そこで効いてきます。

2つ目は、研究機関と海外のデータセンターです。 256量子ビット機の最初の顧客には、米英の大学と、韓国の量子技術会社SDT(韓国内に量子とふつうの計算機を組み合わせたデータセンターを置く計画)が並びます。エヌビディアの研究センターへの導入も決まっていて、ふつうのコンピュータと量子コンピュータを組み合わせて使う方法を一緒に研究すると説明しています。自社部門の売上のうち、米国政府以外の顧客(会社の言う「商用」。外国の政府系機関も含みます)は約65%(前の四半期は60%)でした。

3つ目は、量子技術を使うセキュリティとセンサーです。 暗号の会社を買った後に増えた新しい顧客が125社、別に買ったソフトウェアの会社が約100社の顧客を持っています。センサーの契約は7月以降で9件です。

そして、チップの工場はアイオンキューのためだけに動いているわけではありません。スカイウォーターは、量子コンピュータの競合であるD-Waveなどとも長期の製造契約を結んでいて、アイオンキュー向けを除いた量子分野の受託製造は前年同期比30%超伸びています。競合が増えるほど、工場の仕事も増える形になっています。

計算機の注文が「2027年は完売、2028年も埋まり始めている」と言える段階に入ったこと。その計算機の心臓部のチップを、自社の工場で作れること。この2つが、今回の決算の背骨です。

次の決算で見ること

今回の決算は、言葉が「予定」から「注文」に変わり、注文の残高もそれを裏づけた回でした。そのうえで、売上の大きさを決める台数と単価は、まだ外に出ていません。

次の回の確認点は、3つです。

  1. 自社部門の受注残(今回6億8,900万ドル)が、さらに積み上がるか。減れば、「完売」の重みは変わります
  2. 2027年の見通し、または256量子ビット機の台数が、初めて数字で出てくるか
  3. 256量子ビット機の客先での据え付けが、会社の言う「2027年」に予定どおり始まるか。遅れたと開示されれば、2027年の売上の道筋そのものが動きます

1万量子ビット機の時期が、決算の場で改めて数字で語られるかどうかも、確認点の1つです。


ここに書いたのは、2026年11月5日の説明会までに分かっていることだけです。量子コンピュータの売上は、注文から据え付けまでの時間が長い商売です。注文が増えた回と、それが売上になる回は、別の四半期にやってきます。256量子ビット機の注文が売上に変わり始めるのは、据え付けが始まる2027年です。その手前で積み上がっていくのが、受注残の数字です。


※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。

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