アイダホ州の砂漠で、原子炉の建屋の鉄骨が立ち始めました。
AIのデータセンターが電気を食う、だから原子力が要る。その話の中で、いちばん名前の挙がる若い会社のひとつがオクロです。自分で小さな原子炉を建て、自分で持ち、自分で運転して、電気と熱を売ろうとしている会社です。
■ オクロの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月6日
- 前に進んだのは、工事と燃料工場の言葉でした
- 稼働の目標年に、余裕が足されました
- 3ヶ月前に説明会で語った数字が、今回の説明会では出ませんでした
- メタとの話は「拘束力なし」と本人が認めました
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年11月6日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、編集部の予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。
今回の決算説明会は、工事と燃料工場の話が前に進んだ一方で、初号機を動かす年の言い方は3ヶ月前より後ろへ広がっていました。
その前に、オクロが作ろうとしている「小さな原子炉」とは
原子力発電と聞くと、海沿いに並ぶ大きな建屋を思い浮かべると思います。日本の原子力発電所の多くは、1基で100万キロワット前後の大きさで、炉を水で冷やしています。
オクロの「オーロラ」は、考え方が違います。
まず大きさ。1基は7万5,000キロワット(75メガワット)級で、大型の原発の十数分の一です。工場やデータセンターの隣に置ける大きさを狙っています。
次に冷やし方。水ではなく、液体にしたナトリウムという金属で冷やす「高速炉」という型です。日本では福井県の「もんじゅ」が、同じナトリウムで冷やす型でした。
そして、いちばん大事なのが売り方です。オクロは原子炉を売る会社ではありません。自分で建てて持ち、できた電気や熱を売る会社です。だから、炉が実際に動き出すまで、売上はほとんど立ちません。
この記事の結論は、ここから出てきます。この会社の売上は「いつ炉が動くか」でほぼ決まる。だから今回の決算でいちばん重いのは、数字より日程の言い方でした。
前に進んだのは、工事と燃料工場の言葉でした
3ヶ月前と今回で、はっきり前へ進んだ言葉は2つです。
3ヶ月前:「原子炉区域の掘削は、完了に近づいています」
今回:「原子炉区域の掘削は完了し、安全に関わる鉄筋の工事が進行中で、鉄骨の据え付けが進んでいます」
燃料の工場も同じです。3ヶ月前は「設備を製造中」、今回は「設備の据え付けが進行中」になり、最初の燃料集合体を2027年に作る目標を示しました。
穴を掘り終え、鉄筋を組み、鉄骨を立てる。物理的には確かに前へ進んでいます。ただしこれは、予定どおりの工程を一つずつ消化した、という前進です。商売の形が変わったわけではありません。
8月には、別の小さな炉「グローブス1」の運転も始まっています。建設費は約6,500万ドル、燃料が約1,000万ドルだったと会社は明かしました。建てる力があることは、少なくとも一度は示しています。
稼働の目標年に、余裕が足されました
工事が進んだのに、稼働の年は前へ進みませんでした。
3ヶ月前、財務責任者はこう言っていました。
「(前倒しの話というより)2028年が、いまも狙っている稼働時期です」
今回、準備された原稿では初号機の稼働の年が出てきませんでした。次の目標を並べた一覧の最後に、こう添えただけです。
「時期は、実行の状況と必要な承認次第です」
一方で、同時に出した四半期報告書(10-Q)には「2028〜2029年」とあります。3ヶ月前の四半期報告書は「2028年」でした。アナリストの一人が、ここをそのまま突きました。「2029年へ少し後ろ倒しになった、と読むべきですか」。最高経営責任者の答えはこうです。
「その余裕(バッファ)は入れておきたい。こうしたことを全部やるには、時間がかかるものなので」
理由として挙げたのは、グローブス1で学んだことでした。計測機器の電気的な雑音の対策や、全体を組み上げた後の試運転は、建て終わってからでないとできない作業がある、と。同時に「日程を前へ引き寄せる手も打っていて、うまくいった所もある」「できればもっと前へ引き寄せたい」とも話しています。
会社は「遅れた」とは言っていません。ただ、3ヶ月前に「2028年」と一つの年で言い切っていたものが、2つの年にまたがる幅になり、その理由として余裕を足したことを認めました。売上が炉の稼働で決まる会社にとって、これは小さな言い換えではありません。
3ヶ月前に説明会で語った数字が、今回の説明会では出ませんでした
日程のほかにも、前の四半期の説明会ではっきり語っていたことが、今回の説明会では出てきませんでした。
ひとつは燃料の調達先です。3ヶ月前の準備原稿で、会社はこう強調していました。
「セントラスは、最大5基のオーロラに向けて、初装荷と交換用のHALEUを複数年にわたり供給する。納入は2029年に始まる見込みです」
HALEUは、この型の炉に欠かせない燃料です。
💡HALEU=濃縮度が5〜20%未満のウラン燃料。今の一般的な原発の燃料より濃く、こうした新しい型の炉に使われます。
6月の時点では、これは拘束力のない基本合意(LOI)の段階の話でした。今回の説明会で、セントラスの名前が出たのは質疑応答の中だけで、「古くからの深い関係が続いている」といった短い言及です。説明会では、5基という量も、2029年という時期も、確定の契約へ進んだという言葉もありませんでした。
ただし、同時に出した四半期報告書には続きがあります。6月の基本合意(最大5基分・2029年に納入開始の見込み)に加えて、9月30日に、メタとの前払い契約に関連してセントラスと HALEU の供給契約を結んだこと(条件付き)、11月2日にメタの資金の最初の分がセントラスへ燃料発注の前払いとして直接支払われたことが書かれています。説明会では触れませんでしたが、話は止まっておらず、書面の上では一歩進んでいます。ただし、その契約の量や条件は書かれていません。
もうひとつはアイソトープ(放射性同位体)です。3ヶ月前、財務責任者は最初の売上が「来年の前半に来る可能性が高い」と言っていました。今回の説明会で、最高経営責任者は「最初の契約済みの納入を完了させる」という目標を言っただけで、時期には触れていません。なお、四半期報告書には、買収した事業の評価の前提として、アイソトープの計画の一つが『2027年に売上を生む見込み』と書かれています。ただしこれは前の四半期の報告書と同じ文で、3ヶ月前に財務責任者が言った『来年の前半』を、会社が言い直したものではありません。説明会では、この時期は確かめられませんでした。
燃料の原料にしたい、政府が持つ余ったプルトニウムの話は、3ヶ月前も今回も、時期は出ませんでした。
3ヶ月前(財務責任者):「時期はオクロが決められることではないので、日付は出したくない。軽く答えるなら、以前より近づいています」
今回(最高経営責任者):「残念ながら、それがどんな日程になるかは、この先数ヶ月でずっとはっきりしてくると考えています」
今回は「前進は続いている」とも言っており、悪くなったとは言えません。ただ、2つの四半期をまたいで、日付はまだ出ていません。
メタとの話は「拘束力なし」と本人が認めました
この会社に期待が集まる理由のひとつが、メタ(フェイスブックの親会社)と組んだオハイオ州の計画です。計画では最大1.2ギガワット(120万キロワット)のキャンパスになります。
質疑応答で、別々のアナリストが繰り返しこの計画を聞きました。原子炉を建てる約束として拘束力はあるのか、と正面から問われ、最高経営責任者はこう答えています。
「いまの形では、原子炉を建てることに拘束力はありません」
財務責任者によると、拘束力がある部分は、メタが前払いで資金を出し、その代わりに容量の予約枠を持っていることです。これは前の四半期にも出ていた話の確認で、新しい約束ではありません。ただ四半期報告書によると、メタの資金の最初の分は11月2日に、セントラスへ燃料の前払いとして支払われています。財務責任者が「最初の大きな節目」と呼んだ燃料の確保は、動き始めています。
さらに今回、悪い事実がひとつ加わりました。
「PJMは、バージニア州の候補地に関する私たちの申請の1つを取り下げ、その取り下げに異議を申し立てた訴えも、FERCが最終的に退けました」
送電網につなぐ申請が、1件通らなかったという話です。
💡PJM=アメリカ東部の送電網を運営する組織。発電所を送電網につなぐには、ここの審査を通る必要があります。FERCはその上に立つ連邦の規制当局です。
財務責任者は「取り下げの技術的な理由には同意していない」としたうえで、オハイオには影響しないと言いました。オクロはPJMの2026年の審査に、900メガワット分の容量を出しています。
新しく決まった話は、どれも売上の契約ではありませんでした
前へ進んだ話もあります。ただし向きに注意が要ります。
- U.S.フォージド・リングス(USFR)との合意:2030〜2035年にかけて、オーロラ27基分に相当する部品の製造枠を確保しました。75メガワット級を27基と単純に掛けると、約2ギガワットです
- エネルギー省の資金:リサイクルした金属燃料の開発に、約680万ドルの支援先に選ばれました
USFRとの合意は、オクロが部品を買う側の契約です。売上の契約ではありません。個々の購入は「後の発注で書面にする」と最高経営責任者が準備原稿で述べ、財務責任者も質疑で「いまのところは最初の小さな投資」と説明しましたが、金額は出していません。エネルギー省の約680万ドルは、オクロが受け取る側の資金ですが、この会社の手元資金に比べれば小さな額です。
今回、新しい顧客の名前は出ず、ドル建ての売上の契約も出てきませんでした(セントラスとの燃料の供給契約も、オクロが買う側の契約です)。
損益を支えているのは、預けたお金の利息です
数字はこうです。
- 年初来(1〜9月)の純損失:1億2,330万ドル(1ドル150円で約185億円)
- 年初来の営業損失:1億9,520万ドル
- 年初来の受取利息・配当(純額):7,240万ドル
- 9月末の現金と有価証券:31億ドル(約4,650億円)
売上は、主に6月に買収した2社(ARMECとCEI)の技術・製造の受託から、前の四半期に約120万ドル、今四半期に約190万ドル(年初来で約310万ドル)が立った程度です。原子炉の電気や熱の売上ではなく、損失の大きさに比べればほぼゼロです。それでも純損失が営業損失より7,000万ドル以上小さいのは、手元の現金が生む利息のおかげです。
その現金の大半は、今年に入って株式を市場で少しずつ売って集めたものです。集めた額は年初来で約23億ドル(前の四半期までの累計は19億ドル)。
💡市場での新株の売り出し(ATM)=株価を見ながら、市場で少しずつ新しい株を売って資金を集める方法。
つまり損益を下支えしているのは、本業の稼ぎではなく、株主から集めたお金の利息です。この利息は、本業が育った証拠ではありません。集めた現金が減れば、一緒に細っていきます。
見通しも動いていません。2026年の営業でのお金の出ていき方は1億2,000万〜1億5,000万ドル、設備への支出は4億〜5億ドルで、どちらも前の四半期に引き上げた値の据え置きです。売上の見通しは出していません。
💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。
市場の予想(コンセンサス)も、2026年の売上をほぼゼロ、2027年を約1,000万ドルと見ています。会社の見通しが予想を超えたかどうか、という比べ方がそもそも成り立たない段階の会社です。
時期を聞かれて、時期を答えなかった場面
質疑応答では、燃料・電力・プルトニウムの3つで、時期を聞かれても、約束と言える時期は出ませんでした。
燃料事業で外部から売上が立つのはいつかと聞かれ、答えは「この先2年のうちに、初期のサービス収入が来る可能性はある」。本格的に伸びるのは、施設が動き、他社の炉が展開された後だと言いました。数字はありません。
電力を売れるようになる時期も遠い話です。運転の前に要る安全審査の書類(DSA)について、最高経営責任者は「2028年までは進むとは考えていない」と言いました。オハイオの送電網への接続の審査も、財務責任者によれば「この先24ヶ月」かけて進みます。
プルトニウムの時期は、前の四半期にも聞かれて「日付は出したくない」、今回は「この先数ヶ月ではっきりする」でした。二つの四半期をまたいで、日付が出ていません。
今週の選挙で政治の風向きが変わったことと、州の段階でデータセンターの建設を一時止める動き(モラトリアム)が議論になっている点も聞かれました。会社は、75メガワットの大きさは工業団地などデータセンター以外にも向いており、両党の知事から関心が来ていると答えています。売る先を広げられる設計であることは、この会社の持ち札です。
具体的に答えた質問もありました。アイダホの初号機に要る部品の調達先をどこまで固めたかについて、最高経営責任者は「ほぼ終わっています」と言い切っています。調達の面では、初号機の準備はできているという答えでした。ただ、稼働の年に幅を足した理由として会社が挙げたのは、組み上げた後の試運転という、まだ誰も見ていない工程です。
なぜ、この会社では「日程の言葉」がすべてなのか
AIのデータセンターは、電気をどこまでも探しています。最高経営責任者も、データセンターが「電力を見つけられる場所ならどこへでも」広がっていると語りました。原子力への期待は本物で、オクロの計画の大きさはその期待の上に立っています。
ただ、この会社の大きな売上につながる因果の鎖は、ほとんどが「炉が動いた後」に置かれています。電力は初号機の稼働が2028〜2029年、部品の製造枠は2030〜2035年。炉を待たない売上もあるにはあります。買収した2社の受託、燃料事業の初期のサービス収入(「この先2年のうちに可能性」)、四半期報告書の買収評価の前提で2027年とされるアイソトープの計画です。ただ、どれも規模の数字は出ておらず、説明会での時期の言い方も幅のあるものでした。
だから、鉄骨が立ったというニュースと、稼働の年に幅が足されたというニュースは、同じ重さでは並びません。前者は予定どおり、後者は予定そのものの書き換えだからです。
次の決算で確かめたい点は3つです。
- 初号機の稼働目標が「2029年」以降の一つの年にまとまったら、今回の幅は後ろ倒しの始まりだったことになります
- セントラスとの供給契約(9月30日・条件付き)の量と条件が明らかになるか。メタの計画のために結んだこの契約が、6月の基本合意の『最大5基分』のうちどこまでを確定させたのかが、燃料の不安の大きさを決めます
- メタとの計画で、原子炉を建てる約束に拘束力が付くか。オハイオの送電網の申請がバージニアと同じ道をたどらないか
鉄骨を立てる速さは、もう示されました。次に示す必要があるのは、組み上げた後の試運転と、承認と契約の速さです。次の四半期は、この3点が前の回の言葉からどう動くかが焦点です。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。