モデルナ決算の内容:売上見通しを「最大10%増」から「15〜25%増」へ。7〜9月期の上振れには出荷の前倒しも混ざる【MRNA・2026年7〜9月期】

新型コロナのワクチンで一気に名前が知られたアメリカの会社、モデルナ。ブームが去ったあと、年間の売上は2022年の約193億ドルをピークに、2023年・2024年・2025年と3年続けて減っていました。2025年は約19億ドルです。

今回、その流れが変わりました。7〜9月期の売上は前年同期比29%増。通期の売上見通しは、3ヶ月前の「最大10%増」から「15〜25%増」へ引き上げられました。がん治療の大型試験では、良い結果も出ています。

ただ、7〜9月期の上振れの理由として、CFO(最高財務責任者)は需要の増加と並べて「7〜9月期と10〜12月期の間の出荷の時期」を挙げました。良い数字の中に、本来は次の四半期に入るはずだった売上も混ざっている、ということです。

■ モデルナの決算説明会の内容(要点)

  • 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
  • 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月6日
  • 3ヶ月前は「下がるかもしれない」と身構えていた
  • 7〜9月期は売上29%増、最終損益は黒字に
  • 見通しは、市場の予想も上回った
  • 上振れの中身と、答えが出なかったこと
MRNA chart_article.png

日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。

※この記事で扱うのは、2026年11月6日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。

💡決算説明会=決算発表のあとに、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言はそのまま記録に残ります。

目次

その前に——モデルナの売上は、なぜ秋に偏るのでしょう

モデルナは、mRNA(メッセンジャーRNA)という技術でワクチンや薬を作る会社です。

💡mRNA=体の細胞に「この形のたんぱく質を作って」という設計図を渡す仕組み。ウイルスの一部の形を作らせて、免疫に覚えさせるのがワクチンとしての使い方です。

いま売上の柱になっているのは、新型コロナのワクチンです。このワクチンはもう「緊急の一度きりの注文」ではなく、毎年秋に打つ季節の商品になっています。日本でも、インフルエンザの予防接種は秋から冬に集中します。あれと同じで、モデルナの売上も、接種シーズンが始まる7〜9月期と10〜12月期にまとまって入ります。

季節の商品だと、何が起きるか。年間の売上がほぼ同じでも、出荷が9月に入るか10月に入るかで、7〜9月期と10〜12月期の数字が大きく入れ替わります。 今回の決算を読むうえでいちばん効いてくるのが、この点です。経営陣自身が、7〜9月期の上振れの理由の1つに「7〜9月期と10〜12月期の間の出荷の時期」を挙げているからです。

3ヶ月前は「下がるかもしれない」と身構えていた

3ヶ月前(4〜6月期)の決算説明会で、CFOは新型コロナの接種率が下がる可能性を織り込んで通期の数字を組んでいました。

「上半期の業績には満足しており、2026年の売上成長は最大10%という見通しを維持します」
「2026年の売上見通しには、新型コロナの接種率が今後下がる可能性を織り込んでいます」

今回、同じCFOからその前提への言及はなく、代わりにこう語られました。

「通期の売上見通しを15%〜25%の成長に引き上げます。これは、従来の最大10%成長という見通しを上回るものです」
「(アメリカでは)接種率は前年と比べて比較的安定しています」

接種の数字もそれに沿っています。アメリカの小売店と高齢者施設でのインフルエンザ・新型コロナ・RSウイルスのワクチンの接種数は、10月下旬までで合わせて約4,410万回。前年同期より3%増えています。ただし社長によると、新型コロナだけを見ると前年をやや下回るペースで、10月の勢いから「前年並みで終わるかもしれない」という見立てです。

💡ガイダンス(見通し)=会社が自分で出す、今年の売上や費用の予想。途中で上げたり下げたりします。

変わったのは見通しだけではありません。

  • がん治療:3ヶ月前は「2026年の中間解析を楽しみにしている」。今回は「第3相試験で良い結果が出た」
  • インフルエンザワクチン:3ヶ月前はアメリカの承認を待つ段階。今回は承認を得て、会社にとって5つ目の承認製品、mRNAのインフルエンザワクチンとして初めて市場に出るものになりました

3ヶ月前に答えを待っていた3つの話が、3つとも「結果が出た」側に動いた四半期です。

7〜9月期は売上29%増、最終損益は黒字に

  • 売上:13億ドル(前年同期比 +29%)。1ドル150円で約1,950億円です。会社は、伸びの主因を海外での新型コロナのワクチンの販売増としています
  • 純利益:1.62億ドル。前年同期より3.62億ドル改善し、赤字から黒字になりました
  • 1株あたり利益(EPS):0.38ドル(前年同期は0.51ドルの赤字)
  • 研究開発費:5.83億ドル(前年同期比 −27%)

💡EPS(1株あたり利益)=会社の利益を株の数で割ったもの。ここに挙げた純利益とEPSは、会計基準どおりの数字です。

海外も伸びました。年初からの海外売上は9億ドルで、2025年の1年分をもう2億ドル上回っています。経営陣は、英国とカナダでの販売が特に好調だったと述べています。今年の伸びの柱として会社が挙げてきたのは、新しい新型コロナのワクチンの普及と、英国・カナダ・オーストラリアの政府との戦略的な提携の2つです。

費用の側も締まっています。通期の研究開発費の見通しは2億ドル下げて27億ドルに。調整後の現金コスト(会社が独自に定義する、現金で出ていく費用の合計)の目標も、さらに2億ドル下げて約38億ドルにしました。

見通しは、市場の予想も上回った

2025年の売上は、四半期を足すと約19.5億ドルです。そこから15〜25%伸びると、2026年の売上は約22.4億〜24.3億ドルになります。アナリストの売上予想の平均は約21億ドルだったので、会社の見通しはその下限ですら予想を上回っています。

💡コンセンサス=その会社を調べているアナリストたちの予想の平均。会社の見通しがこれを上回るかどうかで、決算の受け止め方が変わります。

年末の手元資金の見通しも上がりました。転換社債で調達した分を除くと55億〜57億ドルで、前回の47億〜52億ドルから引き上げています。理由として、会社は売上見通しの改善と、費用・設備投資の削減を挙げました。

上振れの中身と、答えが出なかったこと

数字はそろって良くなりました。ただし、中身を分けると性格の違うものが混ざっています。

まず、7〜9月期の上振れの理由として、CFOは3つを挙げています。

「アメリカと海外の両方で、7〜9月期の売上は想定より強く、その理由は需要の増加、業務の実行、そして7〜9月期と10〜12月期の間の出荷の時期の組み合わせです」

3つ目は、本来10〜12月期に入るはずだった売上が早めに入った、という意味を含みます。実際、年初からの売上18億ドルを通期の見通しから引くと、10〜12月期の売上はおよそ4.4億〜6.3億ドルになる計算です。前年の10〜12月期は約6.8億ドルでした。見通しの上限を取っても、10〜12月期は前年とほぼ同じか、それを下回る形です。7〜9月期の上振れの一部は、10〜12月期からの前倒しでもあるということです。(前倒しは四半期の間の入れ替わりなので、通期の合計は変えません。通期の引き上げそのものについて、会社は「シーズンの好調な滑り出しと、10〜12月期の見通しが立ってきたこと」を理由に挙げています。)なお3ヶ月前、CFOは「7〜9月期の売上は下半期の約55%になる」と話していました。上の計算だと7〜9月期は下半期の約67〜75%で、想定より7〜9月期に寄っています。

なお、CEOは締めくくりで見通しを「15%と20%の間」と口にしましたが、同じ日の決算リリースは、CEO本人の談話も含めて「15%〜25%」です。会社の見通しは15〜25%で一本と読んでよいでしょう。

手元資金が増えた理由も分けて見る必要があります。期末の現金・投資は80億ドルで、前の四半期末の69億ドルから増えましたが、主な理由は、利息ゼロの転換社債(30億ドル)で得た約26億ドルの手取りです。一方で、訴訟の和解金9.5億ドルの支払いもありました。

💡転換社債=あとで株に換えられる権利がついた借金。利息を低くできる代わりに、株に換えられると株の数が増えます。

質疑応答で、質問者が変わっても何度も聞かれたのは、売上ではなく、腎臓がん(腎細胞がん)を対象にした、282人規模の第2相試験の結果がいつ、どう出るかでした。開発責任者の答えは「イベント次第なので、今年末か来年初めになりうる」。ここでの「イベント」は再発などの件数のことで、この試験はその件数が一定数そろった時点で結果を解析します。確信の理由として挙げたのは、この種のがんに免疫の薬が効きやすいことや、メラノーマの試験で出た効果の大きさなどで、この腎臓がんの試験そのものの途中経過は示されませんでした。統計の計画については「これ以上は言いません」、イベントの進み具合については「それについてはコメントしません」と答えています。

もう1つ、前に進んでいた話が後ろへ下がりました。ノロウイルスのワクチンです。この試験は中間解析で早期成功の基準を満たしておらず、3ヶ月前は「4つ目の参加者グループの登録を準備している」と言っていました。今回は「この冬は追加のグループを登録しないことにした。代わりに保健当局と協議する」。理由を聞かれた社長は「現時点で、すでに述べた以上のことはあまり言えません」と答えています。

3ヶ月前に経営陣が自分から出していた話のうち、今回の説明会で一度も出てこなかったものもあります。欧州委員会と結んだ、RSウイルスのワクチンを最大2,400万回分供給する共同調達の契約と、新しい新型コロナのワクチンが発売初シーズン(2025〜26年)にアメリカの小売市場で約24%のシェアを取ったという数字です。どちらも、今回の決算リリースにも書かれていません。

なぜ、いまモデルナの話が「ワクチンの次」へ移るのか

ここまで読むと、今年の数字は季節のワクチンが作ったものだと分かります。ではこの先の売上は何が作るのか。経営陣が来年の伸びの理由として挙げたのは、こうでした。

「インフルエンザは2026年にはまだ比較的小さいですが、来年は伸びると見ています。欧州が開けてきますし、中南米の提携もあります。そして、うまくいけばINTが承認されているでしょう」

INTは、メルクと共同で開発している個別化がん治療です。

💡個別化がん治療=患者一人ひとりのがんの遺伝子を調べ、その人のがんにだけある目印を設計図にしてmRNAで作る治療。今回の試験では、手術のあとに、既存の免疫の薬(キイトルーダ)と組み合わせて使っています。

今回の第3相試験は、皮膚がんの一種(メラノーマ)を手術で取り除いた1,100人超の患者が対象です。開発責任者によると、キイトルーダ単独と比べて、再発または死亡のリスクを42%下げました。2年時点で再発していない人の割合は、組み合わせで82.2%、キイトルーダ単独で70%です。

💡第3相試験=承認を申請する前の、最後の大規模な試験。ここで良い結果が出ると、承認申請へ進みます。

この結果をもとに、承認申請の時期について社長はこう話しました。

「申請が今年中に行われるよう取り組んでいます。そしてすべてがうまくいけば、これまでも言ってきたとおり、承認は来年になると期待しています」

ただし、値段については「現時点では時期尚早です」。承認されたとしても、どれだけの売上になるかを測る材料は、まだ会社から出ていません。

もう1つの柱は、政府との戦略的な提携です。海外の売上についての質問に、CFOは「かなりの部分はとても持続的です」「売上の50%超を占めます」と答えました。この50%が全社の売上の中での割合なのか、海外の売上の中での割合なのかは、発言からははっきりしません。今期はメキシコの現地メーカーと、新型コロナのワクチンの供給を支える5年の契約も結びましたが、金額は示されていません。

季節のワクチンで足元の数字を立て直しながら、季節に左右されないがん治療を次の柱に育てようとしている。売上の柱を入れ替える途中の決算でした。

次の決算で確かめること

  • 10〜12月期の売上が、計算上の4億〜6億ドル台に収まるか。通期の成長率が、15〜25%の幅のどこに着地するか
  • INTの承認申請が、言葉どおり今年中に出ているか
  • 腎臓がんの第2相試験の結果が、「今年末か来年初め」の時期どおりに出るか
  • ノロウイルスのワクチンについて、保健当局との協議の結果が語られるか

今回の数字は、3ヶ月前に経営陣自身が身構えていた水準をはっきり超えました。そのうえで、上振れのどれだけが「来年も続く売上」で、どれだけが「四半期の入れ替わり」なのかは、10〜12月期の数字が出るまで分かりません。次の説明会で、その答え合わせをします。


※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を平易な言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。医薬品の効能や安全性を保証するものでもありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この記事で扱ったような内容は、ブログでは一部しか公開していません。

現在、メルマガでは

  • レラティブストレングスランキング(日本株・米国株)
  • 季節性アノマリーチャート
  • 市場のDNAに基づいた実践的な考え方

を継続的に配信しています。

▶ メルマガの詳細はこちら

この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。

目次