今四半期の数字だけなら、良い決算でした。売上の伸びは会社の見通しを上回り、利益率も上がっています。
ところが同じ決算説明会で、財務責任者はこう言いました。今年新しく積み上がる契約の金額は、去年より減る。次の四半期の売上の伸びは、17%から12%まで落ちる見通し。そして、この逆風は来年まで続く。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに説明し、質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言はそのまま記録に残ります。
会社の名前はハブスポット。中小・中堅企業が営業、マーケティング、顧客対応に使うソフトを、ネット経由の定額制で提供しています。顧客の情報を一か所にまとめて管理する、いわば「会社の顧客台帳」です。世界の顧客は31万社を超えました。
■ ハブスポットの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月4日
- 第3四半期の数字は、確かに見通しを超えました
- 「年内」だった逆風が、2027年まで延びました
- 通期の上方修正の裏で、第4四半期は切り下げられています
- 逆風は、大きい客と小さい客で違う形をしています
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年11月4日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
その前に——「ARRの純増」って、何でしょう
この決算の話は、ARRの純増という言葉が分からないと、矛盾して聞こえます。売上は伸びているのに、なぜ悪い話になるのか、と。
ARRは「いま結んでいる定額契約を、1年分の金額に直したもの」です。名前は売上に似ていますが、別物です。その純増は、1年のうちにARRがどれだけ増えたかを指します。新しい客や追加の契約で増えた分から、解約や減額で減った分を引いた金額です。
売り切りの商売なら、今月売れた分がそのまま今月の売上です。定額制は違います。一度結んだ契約が、翌月も翌年も売上として入り続けます。
アパートの家賃を思い浮かべると分かりやすいと思います。今月の家賃収入は、去年より多いかもしれません。去年までに埋まった部屋の分が入ってくるからです。でも今年新しく埋まる部屋が去年より少なければ、収入の増え方はあとから鈍っていきます。今月の通帳を見ても、まだ分かりません。
ハブスポットの今回の決算は、この形です。17%の増収は積み上げてきた契約の結果で、ARRの純増が去年より減ることは、これからの売上の伸びに関わる話です。 だから同じ説明会の中で、両方が同時に成り立ちます。
第3四半期の数字は、確かに見通しを超えました
- 売上 9億4,760万ドル(前年同期比 +17%)。1ドル150円で約1,420億円です。会社の見通しは9億2,400万〜9億2,500万ドルでした
- 調整後の一株利益 3.81ドル(前年同期比 +43%。見通しは3.25〜3.27ドル。会計基準どおりでは1.67ドル)
- 調整後の営業利益率 23%(前年同期から3ポイント上昇。見通しは20%。会計基準どおりでは8%)
- フリーキャッシュフロー 1億8,800万ドル(売上の20%)
💡調整後=株式報酬などの項目を除いた、会社自身の物差しの数字(non-GAAP)。この回の一株利益なら、会計基準どおり(GAAP)の1.67ドルが、調整後では3.81ドルになります。
💡一株利益(EPS)=会社の利益を、発行している株の数で割ったもの。
💡フリーキャッシュフロー=本業で稼いだ現金から、設備などへの投資を引いて手元に残るお金。
純増の客数は5,300社で、前回示していた5,000〜6,000社の範囲に収まりました。ただ、その前の四半期の7,000社からは減っています。
「年内」だった逆風が、2027年まで延びました
需要に関わる見通しの言葉は、3ヶ月で次々と下を向きました。ここで話しているのはどれも財務責任者です。
逆風の期間について。
3ヶ月前:「第2四半期に見えた逆風は、年内いっぱい続くと見ています」
今回:「強まったこれらの逆風は、年内いっぱい、そして2027年まで続くと見ています」
期間が延びただけではありません。「逆風」が「強まった逆風(increased headwinds)」になりました。
ARRの純増について。
3ヶ月前:「2026年度のARR純増の伸びは、為替の影響を除いた売上の伸びを下回ると見ています」
今回:「2026年度のARR純増は、前年より減少すると見ています」
3ヶ月前は、純増の伸びが売上の伸びより低い、という言い方でした。今回は、増える金額そのものが去年より少なくなる、です。どのくらい減るのかの金額は出ていません。
既存客の支払いについて。 売上継続率(NRR)の通期見通しは、前年比で「ほぼ横ばい」から「約2ポイント低下」へ変わりました。第3四半期の実績は101%です。
💡売上継続率(NRR)=去年からの客が、1年後にいくら払っているかの割合。100%を超えていれば、既存の客だけで売上が増えていることになります。
客が去るペースが速まっているわけではありません。解約の影響だけを見る顧客ドル維持率は、80%台後半で安定していると会社は説明しました。圧力がかかっているのは、契約の増額から減額を引いた分です。
純増の客数について。 3ヶ月前は四半期あたり5,000〜6,000社と数字を示していました。今回は「第4四半期の見通しは出しません。第3四半期に達成した5,000の水準は下回ると見ています」です。
通年のフリーキャッシュフロー見通しも、約7億5,000万ドルから約7億2,000万ドルへ下がりました。説明会の中で、理由は語られていません。
最高経営責任者の言葉にも、変化があります。
3ヶ月前:「私たちの中核の基礎は堅調です(solid)」
今回:「私たちの中核の成長要因は、損なわれていません(remain intact)」
「堅調」は、状態の良さを言う言葉です。「損なわれていない」は、傷がついていないと言っている言葉です。指しているものも「基礎」と「成長要因」で少し違うので、言葉の強さだけでは比べられません。
通期の上方修正の裏で、第4四半期は切り下げられています
見通しの見出しだけ読むと、上方修正です。通期の売上見通しは36億7,800万〜36億8,600万ドルから、36億8,500万〜36億8,700万ドルへ。調整後の一株利益は13.23〜13.31ドルから、13.59〜13.61ドルへ上がりました。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。この記事で「見通し」と書いているものです。
けれど、計算すると別の形が出てきます。第3四半期は見通しを約2,300万ドル上回りました。なのに通期の売上見通しは、中心の値で約400万ドルしか上がっていません。 差の分は、残りの第4四半期から削られた形です。
前回の見通しから逆算した第4四半期の売上は、およそ9億6,000万〜9億6,900万ドルでした。今回示されたのは9億4,500万〜9億4,700万ドル、前年同期比+12%です。一株利益も同じで、第3四半期の上振れ(中心で約0.55ドル)に対して、通期の引き上げは約0.33ドルにとどまりました。
為替の影響を除いた売上の伸びは、第2四半期の17.5%、第3四半期の17%、そして第4四半期の見通しが12%です。財務責任者自身がこう言っています。
「第4四半期のガイダンスは、当然ながら、為替の影響を除いた売上の伸びの、より大きな段差を示しています」
ひとつ、割り引いて考える点もあります。今回の見通しにも余裕が含まれている可能性があります。第3四半期は、為替を除いて15%という見通しに対し、実績は17%でした。財務責任者も「今四半期のガイダンスの出し方は、いつもと同じです」と述べています。12%がそのまま実績になるとは限りません。
もうひとつ、まだ答えの出ていない数字があります。決算直後の集計で、アナリスト予想の平均は2027年の売上を約42億ドルとしています(大半は今回の決算を反映する前の数字とみられます)。
2026年見通しからの伸びは約14%です。会社は第4四半期を12%と示し、逆風は2027年へ続くと言いました。正式な2027年の見通しは出していません。この差がどちらへ埋まるのか。2027年については年が明けてから話す、と会社は言っています。
逆風は、大きい客と小さい客で違う形をしています
会社の説明では、同じ「AIへの移行」が、客の大きさによって別の形で効いています。
大きい客では、決まるのが遅くなっています。 買う判断がソフトの選定ではなく戦略の選択になり、購買に関わる人数が増え、最高経営責任者、最高技術責任者、取締役会まで入ってくるようになった、と説明しました。ARR12万ドル超の案件数の伸びは、前の四半期の38%から今回は19%へ半減しました。会社はこれをなお成長要因と呼んでいます。対策の手応えとしては、購買に関わる人が5人以上の案件で、複数の関係者と接触した場合の勝率が3倍近いという数字を出しました。
3ヶ月前は大きな案件の勝率を「非常に堅調」と語っていましたが、今回は大きな案件全体の勝率には触れていません。
小さい客では、値段に敏感になっています。 最高経営責任者の説明はこうです。AIは新しい支出項目で、客はさまざまな実験や道具にかかる費用を抑えようとしている。しかも財務責任者によると、この層の客の取り方は、自社サイトに来た人が製品を試して契約する型です。
💡インバウンド=営業が売り込みに行くのではなく、検索やブログで客のほうから見つけて来てもらうやり方。ハブスポットは長くこの型を得意としてきました。
ここに、この決算でいちばん重い発言があります。インバウンドの需要は、AIによって買い手のソフトの探し方が変わる中で圧力を受け続けている、と最高経営責任者は言いました。会社は新しい入口としてChatGPTなど生成AIとの接続を広げていますが、次の一文が続きます。
「しかし、これらの新しい経路はまだ生まれたばかりで、インバウンド需要の変化を埋めるところまでは、実際には届いていません」
純増の客数は7,000社、5,300社、そして次は5,000社未満です。財務責任者は、この層の需要の変化は純増の客数に「不釣り合いなほど大きく」出ると説明しました。
さらに、客の大きさとは別に、会社が自分で選んだ分もあります。4月から無料の試用を始め、成果に結びつけた価格へ動かしました。経営陣は、買うまでの期間が延びることは分かっていた、それでも長期には正しいと述べています。エージェントの試用は前の四半期より64%増えました。ただ最高経営責任者は、こうも言っています。
「エージェントは、ただオンにすれば済むものではありません」
試用を契約に変えるには、人の手助けが要るということです。
AIの利用は伸びています。ただ、金額は出てきません
明るい数字は、ここに集まっています。
- 上位プラン(ProPlus)の客のうち、同社のAIエージェントを使う割合が20%(年初から11ポイント上昇)
- 同じ上位プランの客で、月間のエージェント実行数が年初の5倍(3ヶ月前に示した「3倍超」は客全体での数字なので、そのままは比べられません)
- 月間のクレジット消費が、年初の約2.5倍
- 外部のAIとの接続を通じて作られた顧客データなどが2,200万件超(前の四半期比+157%)
💡AIエージェント=指示を受けて、営業先の調査や問い合わせへの回答といった作業を自分で進めるソフト。
💡クレジット=使った分だけ払う、AI機能の利用券のようなもの。
会社はクレジットを「新たな成長要因」と呼んでいます。しかし、いくらの売上になっているのかは、今回も述べていません。接続を使う客は解約の少なさを示す維持率が13ポイント高いとも説明しましたが、もともと熱心な客が接続を使っている可能性があり、接続が理由とまでは言えません。
新しい価格の試験も同じです。席ごとの料金とクレジットを組み合わせる仕組みを、4月から北欧、6月からベネルクスの新規客で試しています。対象外の地域と比べて、クレジットの消費は2〜3倍、上位プランの客数は多く、平均の販売価格は低い。「より強い新規ARR」とも言いましたが、これも金額はありません。
第4四半期からは欧州・中東・アフリカの新規客全体へ広げていて、説明会の時点で開始から4週間です。その他の地域へいつ広げるかは未定で、既存の客を移す時期についても「移行の時間軸があるという話ではありません」と答えました。
つまり、値段を下げて、客数とクレジットで取り返す設計が、まだ一部の地域の新しい客で試されている段階です。
2027年の出発点は答えず、解決率72%は消え、利益率23%は採用抑制でした
繰り返し聞かれたことに、答えは出ていません。最初の質問者は「第4四半期の12%は2027年の出発点として妥当か」と聞きました。財務責任者の答えは「現時点で2027年の正式なガイダンスは出しません」で、考慮すべき材料を並べるにとどまりました。移行にどれだけ時間がかかるのかは、少なくとも3人のアナリストが角度を変えて聞いています。出てきた言葉で最も具体的だったのは、最高経営責任者のこの一言です。
「これは1四半期や2四半期で終わる変革にはなりません」
3ヶ月前も、予算の引き締めがいつ緩むのかを聞かれ、「それがいつの月、いつの四半期になるのかは、正確には言えません」と答えています。話題は少し違いますが、2回続けて、時期は出ていません。
3ヶ月前に具体的に語っていた数字や製品で、今回の説明会の記録には見当たらないものもあります。
- 顧客対応エージェントの解決率。前回は「問い合わせの72%を人に回さず解決」。今回は「200万件超を解決」という件数と、解決の質は高いという言葉で、率は出ていません
- AI検索対策の新製品AEOの導入率。前回は「対象の客の32%が有効化」。今回は需要の入口として名前が出るだけ
- 前回、新製品として挙げた、見積もり・契約・請求・決済をまとめるRevenue Hub。今回は言及なし
- エージェントごとの導入客数(前回は1万〜1万7,000社規模の数字を製品別に提示)。今回はなし
消えたからといって悪化したとは限りません。指標を入れ替えただけの可能性もあります。ただ、解決率は次の決算で戻ってくるかどうかが確かめられます。
利益の側にも、見ておくことがあります。23%の営業利益率は、財務責任者の説明では採用を抑えた効果によるもので、第3四半期末の人員は前の四半期から減っていました。
10月6日には組織再編も発表し、第4四半期の会計基準の利益には6,000万〜7,000万ドルの退職関連費用が載ります。節約分の相当部分は人材の引き留めやAI関連へ再投資するとしており、第4四半期の利益見通しについてはアナリストから「少し軽い」という指摘が出ました。会社は、2027年の調整後営業利益率23〜24%という目標は変えていません。
一株利益にも注意が要ります。調整後の純利益は前年同期比+35%、一株利益は+43%でした。差は株数が減った分です。年初からの自社株買いは約10億ドル(1ドル150円で約1,500億円)に近づいています。
💡自社株買い=会社が自分の株を市場から買い戻すこと。株数が減るので、利益の額が同じでも一株あたりの数字は大きくなります。
売上の伸びにも、中身の違いがあります。前の四半期は為替の追い風があり、為替込みで約20%でした。今回は為替込みでも為替を除いても17%で、この追い風は消えました。
純増の客数はどこまで5,000社を割るのか、クレジットの金額は出るのか
ここまでの読みは、「足元の数字は良いが、売上の先行きは下へ動いていて、AIの利用が売上に変わるのはまだ確かめられていない」です。
2026年の実績か2027年の見通しでARRの純増が増加に戻る。売上の伸びが12%を明確に上回る見通しが示される。欧州などの試験の結果を受けて、全面展開の時期が決まる。これらが出れば、この読みは改めます。
逆に、第4四半期の純増の客数が5,000社を大きく下回り、クレジットの金額がなお語られなければ、効果が数字に出るまで時間がかかる、という説明がもう一度繰り返されることになります。
2月の説明会で、第4四半期の純増の客数の実績と、欧州・中東・アフリカでの試験の詳細を話すと会社は言っています。「5,000の水準は下回る」が実際に何社だったのか、そこで分かります。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。