3ヶ月前、この会社は「成長を引っ張っているのはこの2つの事業です」と、名前を挙げて胸を張っていました。
今回、同じ2つの名前が、まったく逆の文脈で出てきました。「想定より弱かったのは、この2つです」。
オフィスチェアの「アーロンチェア」で知られるハーマンミラーと、ノール、デザイン・ウィズイン・リーチ(DWR)などの家具ブランドをまとめて持っている会社、ミラーノールです。
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年9月22日に行われた、2026年6月〜8月期(同社の会計年度では2027年度の第1四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、僕の予測ではありません。次回の決算日は会社の発表待ちです。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに向けて説明し、質問に答える電話会議。発言はそのまま記録に残ります。
その前に——オフィス家具は、どうやって売れていくのか
この会社を読むには、オフィス家具の売れ方を先に知っておく必要があります。
「家具の会社」と聞くと、お店に並んだ椅子を誰かが買っていく姿を思い浮かべると思います。この会社の売上の半分以上を占める法人向け(北米コントラクト事業)は、そうではありません。
会社がオフィスを移転したり、内装を一新したりするとき、机や椅子は1脚ずつ買いません。建築設計事務所や内装の専門家が「このフロアにはこの椅子を何百脚」と指定し、販売代理店が案件として受けます。日本でも、会社の引っ越しで家具がまとめて入れ替わるのを見たことがある方は多いと思います。あれの、アメリカ版の大口です。
だから流れは、こうなります。
案件が決まる → 注文(受注)が入る → 作って届ける → やっと売上になる。
💡受注=お客さんから正式な注文を受けた金額。まだ売上ではありません。
💡受注残(バックログ)=注文は受けたけれど、まだ届けていない分の合計。この先の売上の「在庫」のようなものです。
この記事の結論に効くのは、ここです。「案件は決まっているのに、注文に変わるまでが遅くなっている」。今回、経営陣はそう認めました。案件が決まっても注文にならなければ、売上の列には並びません。
「成長の原動力」が、3ヶ月で「弱かった理由」に入れ替わりました
言葉の変化は、決算説明会の冒頭からはっきりしていました。
3ヶ月前:「売上は10億ドル強、前年比+4.4%で、ガイダンスを上回る安定した成長をまた1四半期続けました。牽引したのは北米コントラクトとグローバル小売の伸びです」
今回:「全体としては、売上の逆風にもかかわらず、しっかりした利益率、利益、キャッシュ創出を実現しました。第1四半期の売上は9億2,300万ドル、前年比3.4%減で、主に北米コントラクトとグローバル小売の売上が想定より弱かったことを反映しています」
成長を引っ張った2つの事業が、そのまま弱さの理由になっています。そして文の主語が「売上の成長」から「利益率・利益・現金」に移りました。売上で語れなくなった四半期の、語り方です。
もう一つ、前の四半期には無かった文が出てきました。
「第1四半期に経験した受注の弱さは、事業環境全般の構造的な減速ではなく、タイミングの問題だということを示しています」
「構造的な減速ではない」。3ヶ月前には、こういう打ち消しの文そのものがありませんでした。質疑応答では、アナリストの側がこの言葉をそのまま返しました。「一時的な先送りなのか、それとも構造的な打撃なのか」。
売上は自分の見通しの下限に届かず、通期の見通しも下げました
実績です。
- 売上 9億2,300万ドル(前年同期比 −3.4%。1ドル150円で約1,385億円)
- 受注 9億1,400万ドル(前年同期比 +3.2%)
- 受注残 6億6,900万ドル(前年同期比 −3.1%)
- 調整後の一株利益 53セント(関税の還付を除くと 42セント)
💡調整後(non-GAAP)=会社が「一時的」と判断した項目を除いた数字。会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物です。
3ヶ月前、会社はこの四半期の売上を9億2,800万〜9億6,800万ドルと見込んでいました。実績の9億2,300万ドルは、その下限を割っています。一方で一株利益は、見通しの33〜39セントに対して、還付を除いても42セントで上回りました。売上は届かず、利益は届いた。この形が、今回の決算の全体像です。
💡ガイダンス=会社が自分で出す業績の見通し。
通期の見通しはこう変わりました。
- 売上:39億3,000万〜41億3,000万ドル(中央で+5%成長)→ 38億8,000万〜40億3,000万ドル(中央で+3%成長)。上の端も下の端も下げました
- 調整後の一株利益:1.85〜2.15ドルで据え置き
利益の見通しは動いていません。ただ、据え置いた中には、新しく発動したアメリカとカナダの関税による負担(1株あたり約7セント)が含まれていると会社は説明しています。そしてこの四半期には、別の関税が戻ってきた分が約11セント乗っています。それが次の話です。
利益を押し上げた最大のものは、戻ってきた関税でした
この四半期、アメリカ政府から1,650万ドル(約25億円)の関税が戻ってきました。以前に払って、すでに費用として処理していたものです。
💡関税の還付=払った関税が、後から返ってくること。今回はIEEPA(国際緊急経済権限法)という法律を根拠にした関税の分で、会社はこれを本業とは別の項目として示しています。
効き方を並べると、こうなります。
- 粗利率は41.7%で前年比+3.2ポイント。うち1.8ポイントが還付。調整後の粗利率(41.8%)で見ると、還付を除いた改善は1.5ポイントで、主に値上げの浸透によるもの
- 小売事業の営業利益率は+5.8ポイント。うち4.1ポイントが還付。除くと+1.7ポイント
- 調整後の一株利益への寄与は約11セント
💡粗利率=売ったお金から、作るのにかかった原価を引いて残る割合。
会社は還付を除いた数字も自分から出しています。隠してはいません。ただ、この四半期の「利益は良かった」という印象の、いちばん大きな部分が政府からの払い戻しだったことは、数字のとおりです。
3ヶ月前に数字で語っていたことが、4つ消えました
言葉が下を向いただけではありません。前の四半期に金額や内訳まで出していたことが、今回は言葉だけになりました。
中東の数字。 3ヶ月前はこうでした。
「中東は、通常は年間の売上で約5,000万ドル規模と見ています。第4四半期の受注は1,300万ドルでした」
今回は「アジア、中東、欧州の一部と中南米で動きが特に強かった」という一言だけで、金額は出てきません。
一株利益の、上半期と下半期の配分。 3ヶ月前は「通期の一株利益の約40%を上半期、約60%を下半期と見込んでいます」と言っていました。今回は売上の見通しを下げ、一株利益は据え置いています。そうした以上、配分がどう変わったのかは説明が要るはずです。その配分に、今回は一度も触れていません。
出店の内訳。 3ヶ月前は、ハーマンミラーの店を9〜11店、DWRの店を5〜7店と、ブランドごとに分けていました。今回は「年間で約14〜18店」と合計だけです。同じ説明会で、DWRの新店は最初の立ち上がりが想定より弱かったとも認めています。
報酬の金額。 3ヶ月前は、社員の業績連動報酬が前年より約2,500万ドル増えると金額で出していました。今回は「業績連動報酬の増加」という言葉だけです。
ほかにも、工場の閉鎖は前回「ミシガン州マスキーゴン」と地名つきでしたが、今回は「西ミシガンで3つ目を閉鎖中」になりました。新店の投資回収が「3年を大きく下回る」という言い方も、今回は出てきません。そして最高経営責任者の席は、前の四半期から引き続き暫定のままで、正式な後任選びの進み具合には一言も触れていません。
ひとつひとつは小さな変化です。ただ、全部が同じ方向、細かかったものが粗くなる方向に動いています。
経営陣が数字で答えなかった、ひとつの問い
質疑応答の最初の質問は、今回の核心を突いていました。「社内の先行指標は良いと言っていたのに、なぜ北米コントラクトの受注は弱かったのか」。
答えはこうです。
「私が見ているのは6つです。定期的に見ている6つの指標は、すべて正しい方向を向いています。ただ、営業組織からの報告では、顧客が、案件の決定から注文に変えるまでに少し長くかかっているようです」
理由として挙がったのは3つでした。州や地方の政府は、目前に迫った中間選挙を前にためらっている。連邦政府は、人員削減のあった機関の戻りが普段より遅い。病院などのヘルスケアは、見通しは良いが案件の時期の関係で一時停止した。
ここに、この決算でいちばん大事な食い違いがあります。「指標は全部良い」と言いながら、その指標の水準も、どれだけ良くなったかも、一度も数字で出していません。 同じ口で、注文への変わり方は遅くなったと認めています。
3人目のアナリストが、同じ問いを言い方を変えて聞き直しました。一時的な先送りか、構造的な打撃か。そして「コントラクトの案件の流れについて、何か数字で示してもらえると助かります」とはっきり頼んでいます。返ってきたのは「案件の動きは依然としてとても活発です。案件が大きくなっていて、形になるまで少し時間がかかる」という言葉で、数字は出ませんでした。
1人目と3人目が同じことを聞いて、2回とも数字が返らない。この論点は、今回は解けていません。
もう一つ、別のアナリストが「売上が伸びなくても見通しを達成できるだけのコスト削減は、金額でいくらか」と聞いたときも、出てきたのは費用の内訳の中の300万〜500万ドルという部分的な数字で、全体の額は「今後、詳しくお伝えしていきます」と先送りされました。
前年との比較を動かした一時的な要因も、還付のほかにあります。前年の同じ時期には、関税の値上げ前の駆け込みで5,500万〜6,000万ドル分の注文が前倒しされていて、会社は今回の売上減の一部をその比較のズレで説明しています。小売の弱さの一部は、PFAS規制でアウトドア家具の在庫が欠けたことが原因でした。
💡PFAS=撥水や防汚の加工などに使われてきた有機フッ素化合物。規制が進んでいて、使っている商品は入れ替えが必要になります。
それでも、受注の数字は戻り始めています
この決算で、確かに前を向いている数字も書いておきます。
足元の注文が増えています。 経営陣は、四半期が進むにつれて改善し、8月は前年を上回る月になったと説明しました。そして「9月の最初の3週間で、受注は前年比+9%。しかも3つの事業すべてで伸びています」。この回の質疑応答で、いちばん具体的で、後から確かめられる答えでした。
海外の受注が反転しました。 3ヶ月前は「世界的な地政学の懸念が受注に響いた」として、受注は前年比−8.7%でした。今回は1億8,100万ドル、前年比+17.3%。ただしこの中には韓国の大型案件が入っていて、相手の名前も金額も出ていません。会社自身も「海外は案件次第で、四半期ごとに動く」と言っています。しかも海外事業の営業利益率は4.6%で、前年から3.9ポイント落ちました。メキシコシティの新しいショールームの立ち上げ費用などが重なったためです。
北米の小売の受注は、8四半期連続で伸びています。 今回は+7.5%(前の四半期は+8.7%)。小売の利益率を毎四半期改善させると3ヶ月前に言ったことも、還付を除いた+1.7ポイントで実行されています。
借金の重さは、少しずつ軽くなっています。 純有利子負債がEBITDA(ざっくり言えば、本業で稼ぐ現金の力)の何倍かという指標は2.75倍で、前の四半期の2.80倍から下がりました。会社の目標は2.0〜2.5倍です。
オフィスへ人が戻る流れは、この会社に届くのか
この会社の法人向けの売上を決めるのは、結局のところ、企業がオフィスにお金をかけるかどうかです。
経営陣は、追い風の根拠としてアメリカの「クラスA」オフィスを挙げました。立地も設備も一番良いランクのオフィスビルのことで、その空室が埋まっていく量(純吸収)が、直近4四半期の合計で2020年の半ば以降で最も多くなっている、と言っています。良いビルに企業が入れば、内装を作り直し、椅子と机を入れ替えます。この会社の法人向けの商品が入るのは、まさにそこです。
経営陣はさらに、こうも言っています。
「待っていた企業の中には、これからの6〜12ヶ月で相当な工事をしなければならないと気づき始めたところもあります」
筋は通っています。ビルが埋まり、案件は決まっている。あとは注文に変わるのを待つだけ、という絵です。
ただ、その「変わるのを待つだけ」の部分で、今回つまずきました。受注残は前年より3.1%少なく、通期の売上見通しは+3%に下がっています。追い風が本物でも、それが売上の数字になるまでの距離は、3ヶ月前に見えていたより長くなっています。
「タイミングの問題」が崩れるのは、こういう決算です
今回の読みは「利益は還付と値上げで守ったが、売上の入口で詰まっている。経営陣はそれを一時的と言うが、まだ数字で見せていない」です。
次の決算で、北米コントラクトの受注が再び前年を割り込むか、9月の+9%が四半期全体で一桁前半まで鈍るか、通期の売上見通しがもう一段下がるなら、「タイミングの問題」という説明は崩れます。受注残の前年割れが広がっても同じです。海外の+17%が続かず、韓国の1件だけの話だったと分かった場合もそうです。
反対に、僕の読みより良いほうへ外れる形もあります。経営陣が「全部良い」と言う6つの指標が、実際に注文の数字として出てきた場合です。そうなれば、今回の弱さは本当に一時的な詰まりだったことになります。
いちばん確かめたいのは、ひとつです。「案件は決まっている」が、次の3ヶ月で「注文が入った」に変わるのか。 そして、今回やめた中東の金額や上半期・下半期の配分を、次の回で再び数字で語るのか。数字が戻ってくれば、自信も戻ったということです。戻ってこなければ、次の回はそこから書き始めます。
ここに書いたのは、2026年9月22日の説明会までに分かっていることだけです。見立ては次の決算で上書きされます。だから僕は、同じ会社の次の回を、今回の言葉と並べて読みます。
※この記事は、決算説明会の原文をAIで読み解いて書き、複数の検査(事実照合・表現・法務)を通したうえで公開しています。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。