来年の見通しを聞かれた最高執行責任者の答えは、3ヶ月前はこうでした。
「2027年の予想がどうなるか、何を見込んでいるかを今日言うには、まだ早すぎます」
それが今回は、最高経営責任者の口から数字になって出ました。
「カムテックの歴史で初めて、約1年先まで見通せるようになりました」
「2027年の売上は8億ドルを超えると見込んでいます」
同じ説明会で、財務責任者が認めたのは粗利率です。
「確かに、粗利率の水準には少し失望しました」
カムテック(Camtek)は、イスラエルの半導体検査装置メーカーです。AI向けの半導体を組み立てる工程で、不良を見つけ、寸法を測る装置を作っています。
■ カムテックの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月4日
- 「先端パッケージの検査」は、箱を調べる仕事ではありません
- 売上は過去最高の1億6,130万ドル、粗利率は少し下がりました
- 2027年は、3ヶ月で「まだ早い」から数字に変わりました
- 「問題や障害は見当たりません」から「供給網の課題」へ、粗利率の「52〜53%」は消えました
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年11月4日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、編集部の予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに説明し、質問に答える電話やウェブの会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言はそのまま記録に残ります。
来年の売上の話は前へ進み、利益率と部品の話は後ろへ下がりました。
「先端パッケージの検査」は、箱を調べる仕事ではありません
「パッケージ」と聞くと、箱や包装を思い浮かべると思います。半導体のパッケージは、包むだけの工程ではありません。出来上がったチップを基板に載せ、外とつなぎ、1つの部品に仕上げる工程です。
以前は、1枚のチップを1つのケースに収める形が中心でした。AI向けでは、計算用のチップの隣に、メモリのチップを何段も積んだ部品を並べ、細かい配線でつないで1つの部品にします。この高度な組み立てを、先端パッケージと呼びます。
💡HBM=メモリのチップを縦に積み重ねた部品。AI向けの半導体と組み合わせて使われます。
建物にたとえると、平屋なら完成後に一度見て回れば足ります。高層マンションでは、完成してから基礎の不良が見つかっても手遅れです。だから工事の途中で、階を重ねるごとに確かめます。チップも、積んでつなぐ部品が増えるほど、確かめる回数が増えます。
最高経営責任者も、こう説明しています。
「先端パッケージが複雑になるほど、検査と計測の工程が増え、より高度な能力を持つ新しい装置が必要になります」
この会社の売上の約80%が、この先端パッケージ向けです。主力の新世代機は、イーグルG5とホークの2つです。つまり、AI向けの組み立てが増えて複雑になるほど、この会社の注文が増える構図です。今回の決算の強さも、粗利率の悩みも、その需要が急に膨らむ中で起きています。
売上は過去最高の1億6,130万ドル、粗利率は少し下がりました
- 売上 1億6,130万ドル(前年同期比 +28%、前四半期比 +21%)。1ドル150円で計算すると約242億円で、過去最高です
- 調整後の一株利益 0.99ドル(前四半期は0.78ドル)
- 調整後の営業利益 4,750万ドル(前四半期は3,600万ドル)。営業利益率は29.5%で、前四半期の27%から上がりました
- 調整後の粗利率 51.1%(前四半期は51.4%)
💡調整後=会社が一部の費用などを除いて示す数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字とは別物です。この説明会の損益の説明は、調整後の数字で行われました。
💡粗利率=売上から製造にかかった費用を引いて、残った割合。
💡一株利益=会社の利益を株数で割った数字。3ヶ月間の1株あたりの利益が、前四半期の0.78ドルから0.99ドルへ増えたことになります。
売上は、前回示した見通しの1億5,800万〜1億6,000万ドルを小幅に上回りました。営業活動で得た現金は7,110万ドルで、前四半期の1,220万ドルから大きく増えています。現金と預金、有価証券の合計は8億7,710万ドルです。
新世代機は、装置の売上の約57%を占めました。前四半期は約50%です。先端パッケージの比率も、売上全体の約75%から約80%へ上がっています。
売上が伸びて営業利益率も上がったのに、粗利率は下がりました。売上は想定を上回りましたが、1台を作るコストは想定より悪くなりました。
2027年は、3ヶ月で「まだ早い」から数字に変わりました
冒頭の言葉の変化には、もう少し背景があります。3ヶ月前の説明会で、最高執行責任者は「2027年の全体像が分かるまで、少なくともあと1〜2四半期はかかる」とも話していました。今回の説明会で語られた数字は、次のとおりです。
- 2026年10〜12月期の売上見通し 約1億8,000万ドル(前年同期比 +40%。7〜9月期からは約12%増)
- 2026年通期の売上見通し 約5億9,500万ドル(前年比 約20%増)
- 2027年の売上の当初見通し 8億ドル超(約1,200億円。2026年通期から約34%増)
💡受注残=注文を受けたものの、まだ納めていない分。将来の売上の元になります。
ここで気をつけたいのは、8億ドルという数字が2つ出てくることです。1つは今年の初めから10月のイベントまでに受けた注文の累計で、8億ドル超。もう1つが2027年の売上見通しで、8億ドル超。注文は受けた金額、売上は納めて計上する金額で、同じものではありません。
注文の累計は、8月の説明会の時点で6億ドル超でした。最高経営責任者は、10月のイベント以降も「強い受注の勢いは続いています」と述べています。注文の8億ドル超のうち約80%が先端パッケージ向けで、そのほぼすべてがAI需要に支えられた高度な用途だと説明しました。
ただし、10〜12月期と2027年の数字は今回初めて出たものではありません。3週間前の投資家向けイベントで既に示されていました。最高経営責任者は、そのイベントを理由に「本日の発言は手短にします」と話しています。最高執行責任者も、2027年については「本当に当初の見通しです」と繰り返しました。3ヶ月前からの変化は大きいものの、今回の説明会で新たに驚かせた数字ではありません。
「問題や障害は見当たりません」から「供給網の課題」へ、粗利率の「52〜53%」は消えました
後ろへ下がった話は2つあります。
部品と供給について。
3ヶ月前(最高執行責任者):「生産能力について話す限り、問題や障害は見当たりません」
今回(最高経営責任者):「足元では、業界の他社と同じく、限られた数の供給元に関わる、いくつかの供給網の課題を抱えています」
3ヶ月前の質問は生産能力についてのもので、部品の不足や値上がりを聞かれたわけではありません。ただ、同じ答えの中で「下請けも供給網も、すべて整っています」とも話していました。今回不足しているのは、メモリやCPUなど業界全体で使う汎用の部品だと説明しました。解決の時期を聞かれた最高執行責任者の答えは、具体的で、しかも留保つきでした。
「3〜6ヶ月で解決すると見ています」
「ただ、これは本当に私の感覚です。確信はありません」
同じ説明会の後半では、「1〜2四半期、もっと長くなるかもしれません」とも述べています。納期については、顧客との予定は守れる見込みだと説明しました。
粗利率について。 ここがこの決算でいちばん後退した部分です。
3ヶ月前(財務責任者):「年末の時点で52〜53%のどこかに届くことを、確かに望んでいます」
今回(財務責任者):「粗利率は2027年1〜3月期から徐々に改善すると見ています」
3ヶ月前の言い方も「望んでいる」で、約束ではありません。それでも、数字と時期は出ていました。今回は、10〜12月期の水準を冒頭の質問で聞かれても数字を答えず、「52〜53%」も繰り返しませんでした。改善の起点として語られたのは2027年1〜3月期で、水準は示されていません。
原因として挙げたのは、部品や材料の値上がりと、シェケル高です。シェケルはイスラエルの通貨で、ドルに対して強くなると、ドルで売上を得てシェケルで払う費用の負担が重くなります。財務責任者は為替について「私たちの手の及ばないこと」とも言いました。
対策は値上げです。一部は既に始めていて、2027年にかけて勢いがつくと説明しました。ほかに、コスト削減、利益率の高い新世代機の比率の上昇、2027年から売り始めるソフトウェアを挙げています。
「非常に重要」と語ったフォトニクスは、今回の記録に出てきません
3ヶ月前に具体的に語っていて、今回出てこなかったものがあります。
まず、フォトニクスです。 光で信号を扱う半導体の分野で、AIデータセンターの通信にも関わります。3ヶ月前の最高経営責任者はこう語っていました。
「フォトニクスが、今後数年の成長にとって、非常に重要な貢献をするようになると見ています」
当時は、6億ドル超の受注のうち5%がフォトニクスだと説明し、新しい計測装置ナノプロフも紹介していました。今回の説明会の記録には、フォトニクスもナノプロフも出てきません。冒頭の発言を短くした回なので、この沈黙の重みは割り引く必要があります。
年末の営業利益率の数字も、今回は出てきません。 前回は「今年末には30〜32%」と話していました。今回語られたのは、約3年後の目標である34〜36%と、7〜9月期の実績の29.5%です。
後ろにずれた話もあります。8月の説明会で、入り込める工程の例として挙げたハイブリッドボンディングについて、今回はこう答えました。
「2027年には、ハイブリッドボンディングから実質的な事業が出てくるとは見ていません」
事業が形になるのは2028年以降という見立てです。「やめた」のではなく、開発の計画は持っていると説明しています。
💡ハイブリッドボンディング=チップどうしを、より細かく直接つなぐ新しい接合の技術。
シェアの話も、言い方が変わりました。前回、最高執行責任者は「シェアを取り続けられると、非常に強く確信しています」と話しました。今回は2027年について聞かれて、「シェアを伸ばせることも望んでいますが、どの分野でと言うには早すぎます」です。ただ、最高経営責任者は原稿で「シェアを伸ばし続ける絶好の位置にある」と述べています。言い方が弱まったのは、2027年について聞かれた質疑の中だけです。
8億ドルの中身を聞かれて、会社が答えなかったこと
アナリストは、粗利率と部品高、値上げについて、4人が形を変えて聞きました。質疑応答全体で、答えが出なかった論点は次のとおりです。
- 受注残で2027年のどれだけが埋まっているか:「現段階では、これ以上の情報は出せないと思います」
- 値上げの分は8億ドルの中か外か:「上乗せになるのか、含まれているのか、今は言えないと思います」
- HBM(積み重ねたメモリ)の比率:「規模について正確には、現段階ではコメントできません」
- 主要顧客の名前:出ていません。前回も「もちろん話せません」と答えています
いちばん重いのは、最初の項目です。「受注残は大きい」とは言いましたが、大きさを確かめる数字がありません。8億ドルがどこまで確定した注文に支えられているかは、外からは分かりません。
一度きりの要因で売上を飾った形跡は、説明会の中には見当たりません。伸びの中心はAI向けの高度な用途で、会社はそのように説明しています。利益の側では、調整後の純利益5,030万ドルに本業の外の財務収益710万ドルが乗っていますが、前四半期も700万ドルで、今回だけの上乗せではありません。
顧客が急いでいるのは、機械より工場の枠です
なぜ1年先まで見えるのか。答えは、顧客の注文の出し方が変わったことにあります。
「多くの顧客が、2027年いっぱいまでの納入枠を押さえています」(最高経営責任者)
「すでに(2027年の)後半の分も受注しています」(最高執行責任者)
通常、注文から納品までは3〜6ヶ月です。それが今は、1年先の注文を出す顧客がいます。理由の説明は率直でした。
「今すぐ機械が必要だというわけでは必ずしもなく、当社の工場の枠を押さえたいのです」
人気の店の予約が、1年先まで埋まるようなものです。予約が増えるのは強さの証拠ですが、予約と来店は別のものです。 顧客の側で工場のクリーンルームの準備が整う時期に合わせて納める、という説明もありました。
需要の源は1つではありません。
- AI向けの組み立て(チップを横に並べる2.5D、縦に積む3D):受注の過半を占める組み立て請負会社(OSAT)が大きな買い手です
- HBM:6億ドル超の受注の時点で20%超でした。今回は更新されず、2027年も「大きなものになる」という表現にとどまりました
- 中国:2027年の受注残の中で「少なくとも今年と同じ高さ」と財務責任者が述べました
競争についても質問が出ました。アナリストはKLAなどの大手の名前を挙げています。最高執行責任者は、市場が魅力的になって成長しているので、シェアを取れるかもしれないと考える会社が出てくるのは自然だと答えました。大手は「当社より大きいですが、当社が戦う特定の市場では、当社のほうがかなり大きい」とも言っています。これは会社自身の評価です。
長期の目標も示しました。約3年で売上12億ドル、営業利益率34〜36%です。大型の買収は織り込まず、2026年の売上を倍にする計算です。最高経営責任者自身が「野心的な目標だと認識しています」と述べ、業界の流れが続くことを前提に置いています。このうちサービスは約1億ドル、新しいソフトウェアは4,000万ドルを見込んでいます。今年のサービス売上は約4,000万ドルで、ソフトウェアは今のところ「ほぼゼロ」だと説明しています。
8億ドルは下がるのか、粗利率は51.1%を超えるのか
今回の説明会では、確かめる先がはっきりしました。
- 8億ドル超の見通しが、次の2回の説明会で引き下げられないか。 「当初の見通し」という言葉が、外れるのか、上がるのか
- 2027年1〜3月期の粗利率が、10〜12月期より上がるか。 さらに、今回の51.1%を超えて「52〜53%」に近づくか
- 次の説明会で、部品不足とフォトニクスの話がどう出るか。 部品は「3〜6ヶ月」の見立てが保たれているかが分かり、フォトニクスは発言を短くした回だったから出なかったのかを見分けやすくなります
売上の見通しは数字になり、足元の利益率の見通しは数字を失いました。次の説明会でこの組み合わせがどう動くかを追います。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。