アップラビン決算の内容:未達の翌期に売上55%増、それでも新モデルの全面展開の時期は約束しなかった【APP・2026年7〜9月期】

3ヶ月前、この会社の最高経営責任者(CEO)は、自社の未達を認めるところから話を始めました。「この四半期、私たちはその基準に届きませんでした」。

今回の説明会は、挨拶の次にこの言葉が来ました。「過去最高の四半期を届けました」

スマホゲームの全画面広告を中心に広告配信を手がける、アメリカのアップラビンです。売上は前年同期比55%増。会社が3ヶ月前に出した見通しの上限を、約1億ドル上回りました。ところが、回復の原動力である新しいモデルについて「全部に行き渡るのはいつか」と聞かれると、CEOは時期を示しませんでした。

■ アップラビンの決算説明会の内容(要点)

  • 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
  • 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月4日
  • 実績は、見通しの上限を約1億ドル超えました
  • 「設計の作業」が3ヶ月で「部分的に展開した」に変わりました
  • 次の四半期の見通しは43〜44%増、前回と同じ作り方です
  • アップラビンが、今回の説明会で数字で語らなかったこと
APP chart_article.png

日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。

※この記事で扱うのは、2026年11月4日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、編集部の予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。

💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに説明し、質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言はそのまま記録に残ります。

目次

その前に——アップラビンの「モデル」って、何でしょう

モデルと聞くと、質問に答えてくれるチャットのサービスを思い浮かべるかもしれません。ここで言うモデルは別物です。スマホの画面に広告を1回出すたびに、その人が反応しそうかを予測して、入札額を決める計算の仕組みです。CEO自身も「私たちは消費者向けのAI企業ではありません」と断っています。

テレビCMと比べると違いが分かります。テレビは「この時間帯の枠」を売ります。誰が見て、そのうち誰が買ったかは後からしか分かりません。アップラビンは表示1回ごとに競り(オークション)で値段が決まります。

無料のスマホゲームを遊んでいて、途中で別のゲームの広告が全画面で流れた経験があれば、あの広告の世界です。CEOの説明では、平均の視聴時間は35秒を超えます。一方で、広告を見た人が実際に反応する率は1%を少し超える程度です。CEOの言葉を借りれば、1,000回の表示を買えば約987回は損をします。残りの十数回を当てる精度が、この事業の核です。

予測の精度が上がると、広告主は採算を崩さずに多くの予算を使えるようになります。その予算の増加が、この会社の売上の伸びにつながります(売上は広告費の全額ではなく、広告枠の費用を除いた分です)。だからモデルの改善がいつ本番に入るかで、売上の出る四半期が変わります。 3ヶ月前の未達も、CEOの説明では時期の問題でした。四半期中のモデル改善が普段より少なく、次の改善は四半期末の直後に届いたといいます。このときの未達の中身は、売上が見通しの中央をわずかに下回り、利益の指標が見通しの範囲をわずかに下回ったというものです。利益の側については、CEOは技術への追加投資を挙げました。全面展開の時期に答えがないのは、そのまま次の数字が読みにくいという意味です。

実績は、見通しの上限を約1億ドル超えました

  • 売上 21.8億ドル(前年同期比 +55%、前の四半期比 +14%)。1ドル150円で約3,270億円です
  • 純利益 14.4億ドル(前年同期比 +72%)。1ドル150円で約2,160億円、売上に対する割合は66%です
  • 一株利益 4.30ドル(希薄化後。前年同期の2.45ドルから +76%)
  • 調整後EBITDA 18.4億ドル(前年同期比 +59%、売上に対する割合84%)
  • フリーキャッシュフロー 14億ドル(調整後EBITDAの77%。前の四半期は53%)

💡一株利益(希薄化後)=純利益を株数で割った、1株あたりの利益。将来増える可能性のある株まで数に入れて計算したものです。
💡調整後EBITDA=会社が定義する利益の指標で、会計基準どおりの数字(GAAP)ではありません(non-GAAP)。
💡フリーキャッシュフロー=本業で稼いだ現金から、設備などへの支出を引いて手元に残るお金。

上振れの中身を、財務責任者はこう説明しました。「主に、四半期中のモデル改善による、中核のモバイルゲーム事業が牽引しました」。ゲーム以外の広告主(主にネット通販)の拡大が続いたことも併せて挙げています。ゲーム事業の成長率は前年同期比で50%弱で、CEOは「展開と歩調を合わせて再加速した」と言っています。3ヶ月前の「改善は四半期の直後に来た」という説明が、数字で裏づけられた形です。

売上の増加額は前の四半期比で2億ドルをかなり超え、CEOはこの会社で最大の増加額だと述べました。

「設計の作業」が3ヶ月で「部分的に展開した」に変わりました

いちばん大きく変わったのは、新しいモデルの段階です。

3ヶ月前:「計算資源を増やすほど効果が出るようにする、設計面の作業を進めています。これは時間をかけて、はるかに大きな改善につながると考えています」
今回:「この四半期に、次世代のモデルを部分的に展開しました。前回お話しした設計変更の上に作ったものです」

設計の話が、次世代モデルの展開の話になりました。CEOも質疑で「前回予告しました。いま展開を始めています」と述べています。なお3ヶ月前の説明会でも、より複雑なモデルの改善はすでに稼働していると語られていましたが、今回の次世代モデルとの関係は説明されていません。しかもCEOは今回「Axon 2.0と同じくらい重要なモデルの移行」とまで言っています。Axon 2.0は、この会社の成長を大きく押し上げた過去のモデル刷新です。

ただし、この移行には「まだ途中」「時期は約束しない」という条件がつきます。

「これは部分的な展開です。移行はまだこの先にあります」「モデルの改善が四半期ごとにきれいに来るわけではなく、ペースは約束しません」

CEOは「部分的」を、まだ伸びしろがあるという意味で語っています。

アナリストから「ではAxon 3.0と考えてよいか」と聞かれたときの答えは、「技術の複雑さという点では、その水準に置きます」でした。続く事業面の話では同格とは言わず、「これは次世代のモデルです」と述べたうえで、旧モデルよりはるかに長い道筋が開けると続けました。影響の大きさを示す数字は出していません。

周辺でも、言葉が少しずつ動きました。

テレビ広告。 3ヶ月前は「まだ実行に移せる段階ではありません」。今回は「試験的なキャンペーンを走らせています」。ただし同じ回答で「当面の数字への上積みは、まったく当てにしないでください」と釘を刺しています。

広告の素材(クリエイティブ)。 3ヶ月前は「クリエイティブが、このシステムで最大の障壁です」。今回は「障壁とは呼びません。ただ、クリエイティブに投資しない顧客にとっては機会の損失です」。呼び方は軽くなりましたが、解決を示す数字は出ていません。

変わらなかったものもあります。長期の見立ては「年率およそ30%」のままで、CEOは「長期については何も変わっていません」と言いました。Axon 2.0級の移行と言いながら、長い目で見た数字は1ポイントも上げていません。一方で「できる限り、それを大きく上回って走るつもりです」とも言っています。

次の四半期の見通しは43〜44%増、前回と同じ作り方です

10〜12月期の見通しは、売上23.65億〜23.95億ドル(前年同期比43〜44%増、前の四半期比8〜10%増)、調整後EBITDA 19.95億〜20.25億ドルです。

前の四半期比の8〜10%は、3ヶ月前に出した7〜8%より高い数字です。それでも説明会では、今期の14%より控えめに見えると質問が出ました。財務責任者の答えは「見通しの出し方は過去数四半期と同じです。その時点で分かっていることを織り込んでいます」。前提に入っているのは「すでに稼働しているモデルの更新」で、通常の季節性とデータセンターの費用増も含みます。

3ヶ月前も、見通しはまだ出していないモデル改善を含まない作りでした。その結果が上限超えです。ただし、前回の結果が今回の結果を保証するわけではありません。

市場の予想とも比べておきます。2026年通期の売上について、アナリスト予想の平均は80.7億ドル(31人)で、今回の決算を織り込んだ数字かは分かりません。テストで言えば、自分の目標点ではなく周りが予想している点数です。ここまでの3四半期の実績に今回の見通しの中央値を足すと約83.3億ドルで、この平均を約3%上回ります。

予想の平均は集計の時点で動くので、ここは目安として読んでください。上回りましたが、差は大きくありません。

アップラビンが、今回の説明会で数字で語らなかったこと

好決算の裏で、説明会の発言からは3ヶ月前に出ていた具体的な数字がいくつか消え、大事な質問には答えが出ていません。

まず計算資源の費用です。3ヶ月前は財務責任者が「売上が1ドル増えるごとに、計算資源に約10セントを使っています」と金額の目安を出していました。今回の説明会でこの目安は語られず、説明は「学習への投資が増えても、データセンター費用の売上比は下がった」に変わりました。ただし金額は決算書類(10-Q)に出ています。データセンター費用は1.95億ドルで、前の四半期の1.81億ドルから約0.14億ドル増えました。売上の増加2.61億ドルに対して約5セントで、売上比は9.4%から8.9%に下がっています。次世代モデル単独の採算は、この数字からは分かりません。

ゲーム以外の広告主(主にネット通販)も、語り方が粗くなりました。3ヶ月前は「2025年10〜12月期の水準を28%上回って着地した」と具体的でした。今回は「前の四半期比で2桁増、前年同期比で3桁増」という幅の表現です。金額はどちらの回にも出ていません。規模については、ある回答で「もう無視できる規模ではない事業」と言いました。一方、事業の見通しやすさを問われた回答では、この領域はまだ初期で「将来を予測できるほど重要なものは、まだ何もありません」と述べました。規模と予測指標は別の話で、伸びを先回りして測る指標は出ていません。

現金化の見通しは、少し下に広がりました。通期のフリーキャッシュフローは、3ヶ月前の「調整後EBITDAの約75%」から、今回は「引き続き、およそ70〜75%」です。「引き続き」と言いながら、下側に幅が増えています。

質疑で残った論点は、次の3つです。

  • 全面展開の時期は「いつになるか、お伝えも約束もできません」。別のアナリストに全面展開後の影響の大きさを問われた回答でも「まだ部分展開の段階です」
  • 事業の見通しやすさを問われ、「お求めの指標はお出しできません。まだその安定段階にないからです」
  • 広告主の採算の悪化を問われたCEOは、3年前より強くなったと答え、業界調査は小さな一部を見た欠陥があると退けました。ただし実数は出ていません

1株あたりの数字を押し上げている、事業の伸びではない要素もあります。自社株買いと源泉徴収の合計14億ドル(前の四半期は5.51億ドル)です。また、フリーキャッシュフローの比率は四半期でぶれます。前の四半期の53%は現金での納税の時期で低く出たもので、今期の77%との差をそのまま改善とは読めません。

そして、前の四半期に届かなかった改善がこの四半期に入った分、55%の一部は時期のずれで説明できる可能性があります。会社はこの分解を開示していません。

10〜12月期の売上は季節の追い風も受けます。ネット通販の広告主についてCEOは、同じ広告主で比べれば「10〜12月期が大きく、続く1〜3月期は弱くなります」とはっきり認めました。新規顧客の獲得で補える面はあるとしつつ、ネット通販の比重が増すほどその形が強まるとも述べています。

ゲームは顧客が一巡、ネット通販は3桁増。同じ競りの中で伸びしろが分かれます

3ヶ月前の説明では、売上の過半はまだゲームでした。ただ、CEOの説明では競りは1つで、そこにゲームの広告主とネット通販の広告主が一緒に入札します。

ゲーム側は、この四半期に50%弱の伸びでした。CEOは、モバイルゲーム会社はおそらくすべて導入済みと言っており、新規顧客で伸ばす余地は多くありません。だから伸びはモデルの精度しだいです。アナリストから「これまでの20〜30%という期待を維持するのか」と聞かれても、約束は全社で長期30%だと答えました。モデルの改善が進めばゲームも高い伸びを続けられるとしつつ、30%の達成にそれは必要ないとも述べ、ゲーム単独の数字は更新しませんでした。

ネット通販側は3桁の伸びで、こちらは顧客が増える余地が大きいと説明されています。次世代モデルについても、CEOは「データが少ないところほど効果が大きい」と言いました。新しい広告主、小さな広告主、新しいカテゴリーです。

ここで効いてくるのが、データです。大きなモデルには、より多くのデータが要ります。CEOは「私たちはデータに飢えることになります」と言い、紹介や広告での新規獲得に加えて、「何らかのデータ取得」という言葉を今回出しました。直近5回の説明会で、この言葉は使われていないようです。かつて買収したMoPubを引き合いに、データと顧客の関係を買う形の案件なら探す、とも述べています。ただし別の回答では「急いではいません」と言っており、具体的な案件の話は出ていません。

伸びしろの時間軸には、幅があります。小さな宝飾品店がつないだだけで成果が出る段階には「まだ達していません」と言い、そこに届く話として「5年後」を挙げました。

次に確かめられること

次の決算では、この3つを確かめます。

  1. 「部分的な展開」という言葉が、まだ残っているか
  2. ゲームの伸びが語られるか。語られるなら50%弱から大きく落ちていないか(会社は決算書類で業種別の売上を開示していません)
  3. 売上が今回の見通しの下限、23.65億ドルに届くか

もう一つ、計算資源の費用の目安が説明会で再び語られるか、決算書類のデータセンター費用がどれだけ増えるかも見ます。

3ヶ月で「未達」から「過去最高」へ言葉は大きく動きました。ただ、次世代モデルがどこまで広がるのかは、会社自身もまだ約束していません。1〜3月期のネット通販の谷が、次の説明会でどんな言葉で語られるかを見ます。


※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

この記事で扱ったような内容は、ブログでは一部しか公開していません。

現在、メルマガでは

  • レラティブストレングスランキング(日本株・米国株)
  • 季節性アノマリーチャート
  • 市場のDNAに基づいた実践的な考え方

を継続的に配信しています。

▶ メルマガの詳細はこちら

この記事を書いた人

圧倒的な熱量で世界の相場を毎日14時間以上監視している専業トレーダーです。トレード、バックテスト、調査で得た学びを初心者の方にもわかりやすく発信しています。

目次