約1年前、売上の大半を占めていた事業から手を引くと決めた半導体の会社があります。
ナビタス・セミコンダクターです。手放したのはスマートフォンなどのモバイル向けと低価格の民生機器向けで、向かった先はAIデータセンターの電源でした。
■ ナビタスの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月3日
- 売上は前年比+38%、赤字はまだ続いています
- 「3分の1」は「40%」に、「起きると考えている」は「確実」に変わりました
- 次の四半期の言葉だけは、一段おとなしくなりました
- 売上に出ている話、受注残にある話、まだ試験の話、その先の話
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年11月3日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに説明し、質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言は記録に残ります。
7〜9月期の売上は1,400万ドルでした。1ドル150円で約21億円です。実は2025年1〜3月期の売上も1,400万ドルで、額だけ見れば1年半前と同じ場所にいます。変わったのは中身です。会社は、年末には売上のほぼすべてが高出力の市場になると言っています。
その前に——AIデータセンターは、なぜ「800ボルト」に変えるのか
800ボルトと聞くと、危ない高電圧の話に聞こえます。ここで問題になっているのは、むしろ電流を減らすことです。
同じ電力を送るなら、電圧が高いほど流す電流は少なくて済みます。日本の家庭の100ボルトで1,000ワットのドライヤーを使うと、10アンペア流れます。同じ1,000ワットを800ボルトで送れば、1.25アンペアです。電流が少なければ電線は細くて済み、熱として逃げる電気も減ります。
AIサーバーの棚(ラック)は、それだけの電力を食うようになりました。会社の説明では、高密度のラックは500キロワット以上、最大で1メガワットを目指しています。ドライヤー500台から1,000台分を、棚1つに詰め込む計算です。従来の低い電圧のままでは、電線も電源も収まりません。
高い電圧を扱うには部品の材料も変わります。これまでのシリコンに代わるのが、次の2つです。
💡炭化ケイ素(シリコンカーバイド)=高い電圧に強い半導体の材料。
💡窒化ガリウム(GaN)=切り替えが速く、電源を小さくできる半導体の材料。家電量販店の棚に「GaN」と書かれて並ぶ小さな急速充電器の中身です。この会社が手放したモバイル向けは、あの充電器の系統の事業でした。
最高経営責任者は、今の状況をこう言いました。
「電力の効率が、計算能力になりつつあります」
使える電力に上限があるなら、変換で失う電気を減らした分だけ計算に回せる、という意味です。同じ小さな部品の技術を、充電器からデータセンターへ持ち替えられるかどうか。この決算はその途中経過です。
売上は前年比+38%、赤字はまだ続いています
- 売上 1,400万ドル(前の四半期比+33%、前年同期比+38%。前年比で増えたのは2024年以来)
- 粗利率 40.0%(調整後。3四半期連続の改善で、前年同期より1.3ポイント高い)
- 営業損失 1,090万ドル(調整後。前の四半期は1,140万ドル)
- 一株損失 3セント(調整後。前の四半期は4セント、前年同期は5セント)
💡調整後=会社が一時的と考える項目などを除いた数字(non-GAAP)。説明会で財務責任者が読み上げたのはこちらで、会計基準どおりの数字(GAAP)とは別物です。
💡粗利率=売上から製造の原価を引いて残る割合。14ドル売ると5.6ドル残る、ということです。
売上は会社の見通しの上限で、中央の1,350万ドルを上回りました。粗利率も見通しの中央を超えています。伸びを作ったのは高出力の市場で、前の四半期比で50%超、前年比で3桁の増加でした。手放しているモバイル向けの逆風を抱えたままの数字です。10〜12月期の見通しどおりなら、2026年の通期の売上は約7%増えます。昨年の大半を占めた事業がほぼゼロになるのに、通期では前年を超える形です。
「3分の1」は「40%」に、「起きると考えている」は「確実」に変わりました
経営陣の言葉は、この3ヶ月で実体の側へ動きました。
AI向けの比率と、来年の話。
3ヶ月前:「AI基盤の市場は、年末までに総売上の3分の1を超えると見ています。2027年も勢いが続く土台になります」
今回:「AI基盤は、今年の終わりに総売上の40%を超えると見込んでいます。そしてこの事業は、暦年の2027年に3倍になる態勢にあると考えています」
「勢いが続く」が「3倍」になりました。質疑ではさらに「3倍を超える可能性がはっきり見えている」と言っています。なお、この「AI基盤」にはデータセンターだけでなく、それを支える送電網とエネルギーの事業も含まれます。内訳は出ていません。
800ボルトへの移行。
3ヶ月前:「次世代AIデータセンターの800ボルト構成への移行は、2027年に起きると引き続き考えています」
今回:「いま、次世代AIデータセンターの800ボルト構成への移行は確実になりました」
窒化ガリウムの注文。
3ヶ月前:「2027年の立ち上がりに向けた、窒化ガリウムでの自社の立ち位置には強い確信を持っています」
今回:「実際に、かなり大きな注文をいただいています。800ボルトの直流変換用の高密度ブリック向けに、窒化ガリウムのデバイス100万個です」
ブリックは、電圧を変換する小さな電源部品のことです。確信が注文に変わりました。ただ、同じ説明会の冒頭で、この件らしき注文はこう説明されています。
「ある既存顧客が、大手クラウド向けに、大規模なシステムテストのための大きな注文をすでに入れています」
質疑の本人が「冒頭でも触れた」と断っているので、同じ話と読めます。言葉どおりなら、量産の注文というより、試験のための注文です。金額も顧客名も出ていません。
受注の量。
3ヶ月前:「広がる受注残は2026年より先まで届き、受注対出荷比は過去最高です」
今回:「受注残は2027年半ばまであります」「第3四半期の受注対出荷比は、実は2でした」
「過去最高」とだけ言っていたものに、今回初めて数字が付きました。
💡受注対出荷比(ブック・トゥ・ビル)=出荷した額に対して、新しく入った注文の額の比率。2なら、100売る間に200の注文が入った状態です。
💡受注残=注文は受けたが、まだ出荷していない分。こちらは残高で、受注対出荷比は流れの数字です。
最高経営責任者は、転換点の進み方を「3〜6ヶ月前に自分が想定していたより、少し速い」と表現しています。
次の四半期の言葉だけは、一段おとなしくなりました
逆を向いた言葉もあります。目の前の四半期の話です。
3ヶ月前:「前の四半期比の成長は加速すると見ており、売上は28%増の1,350万ドルです」
今回:「前の四半期比の成長は続くと見ており、売上は14%増の1,600万ドル、上下50万ドルです」
「加速(accelerated)」が「継続(continued)」に、伸び率は半分になりました。増える額で見ても、7〜9月期の実績は350万ドル増、10〜12月期の見通しの中央は200万ドル増です。
割り引く材料もあります。前回は+28%の見通しに対して実績は+33%でした。今回の見通しが同じように控えめな可能性はあります。同じ説明会で最高経営責任者は、炭化ケイ素の製品について「10〜12月期と2027年前半の成長を加速させている」とも言っています。受注は売上の2倍、それでも次の四半期の見通しは+14%。差の行き先は来年前半に立ち上がる注文と語られていますが、どの四半期にいくら出るかは語られていません。
ほかにも、前回の説明から動いた点が3つあります。
本命の時期の言い方。 ラックの中まで800ボルトを通す「ネイティブ800ボルト」は、前回「2027年半ばから後半に立ち上がり、2027年終盤から2028年初めに本格的に加速する」でした。今回は「2027年末までに生産に入り、2028年に規模を持つ」です。会社は遅れたとは言っておらず、「引き続き」と前置きしています。それでも、2027年の中で語られていた立ち上がりが、年の終わりの方に寄りました。
6.5キロボルトの炭化ケイ素。 前回は「第3四半期の投入を予定する新しい6.5キロボルトの技術を、まもなくお見せできる」と言っていました。第3四半期の決算である今回、この数字は一度も出てきません。超高電圧の話が消えたわけではなく、米国政府に次世代の10キロボルト品の開発先に選ばれたことは語っています。
米国製の窒化ガリウム。 半導体の受託製造を担うグローバルファウンドリーズとの提携で、前回は「2027年初めに最初の認定品」(品質の試験を通った製品)と言っていました。今回は最初のウエハー(半導体を作る円盤状の基板)の出荷を報告し、「戦略的な顧客にまもなくサンプルを渡す」としています。前には進みましたが、認定の時期は言い直していません。
売上に出ている話、受注残にある話、まだ試験の話、その先の話
この会社の話を分かりにくくしているのは、時期の違う4つの話が同じ熱量で語られることです。会社は800ボルトへの移行を4段階の転換点として説明しています。財務責任者の整理が明快でした。
「第1の転換点は、売上に出ています」「第2の転換点は受注残にあって、2027年を埋めるのに役立っています」
第1は、いま売上になっている段階です。 3キロワットを超える電源で、シリコンを炭化ケイ素へ置き換える動きです。大手クラウド企業と機器メーカーの複数社に向けて、すでに生産しています。ただし独占ではありません。1つの案件に2〜3社が入るのが普通で、会社自身の見立ては「参加した電源の中で3分の1から40%のシェアに向かう」です。
第2は、受注残の段階です。 「サイドカー」と呼ばれる、サーバーの隣に電源専用の棚を置く構成です。「大きな注文はすでに入っており、来年前半に立ち上がる予定です」と言っています。電源のほかバッテリーバックアップにも広がり、炭化ケイ素と窒化ガリウムの両方が使われます。
第3は、試験の段階です。 ネイティブ800ボルトで、12を超える案件でサンプルを出している段階です。先ほどの100万個はここに入ります。
第4は、データセンターの外です。 電力網を丸ごと作り直す話で、半導体を使う変圧器(ソリッドステート変圧器)は「2028年以降」とされています。もっと近い売上としては蓄電システム向けがあり、2027年も伸びると言っています。
エヌビディアとの協業(800ボルトから12ボルトへの電源基板)やマイクロチップとの参照設計(メーカーに見せる見本の設計図)も、今回の材料に挙がりました。いずれも発表された提携で、金額は付いていません。
来年の成長の出どころについて、経営陣はこう言っています。
「来年の計画では、AI基盤以外はおおむね横ばいと置いています」
産業は一部で伸び、コンピューティングは横ばいという見立てです。成長はすべてAI基盤から来る前提なので、データセンターと送電網の話が外れれば、支えは他にありません。
さらにその先に、今回の買収があります。10月に買ったクラロス(Claros)で、現金での支払いは約1億2,600万ドル(約189億円)でした。現金の分だけで、四半期売上の約9倍です。
💡IVR(統合型の電圧レギュレーター)=プロセッサーの直前で電圧を1ボルト未満まで落とす部品を、まとめて真下や基板の中に置く技術。電気の通り道がセンチからミリへ短くなります。クラロスの主力です。
ただ、柱となる顧客の立ち上がりは「2028年後半と2029年」です。会社はこの買収と別の製品群を合わせて、2030年に狙える市場を80億ドル超に倍増させたと説明しますが、これも当面の売上の話ではありません。
2027年の数字は出ていませんが、言葉のとおりに積むと市場の予想より上に出ます
💡コンセンサス=アナリストたちの予想の平均。会社が自分の前回の数字を超えても、周りがもっと高く見ていれば驚きにはなりません。
2026年の通期は、見通しの中央を足すと約4,910万ドルです。市場の予想の平均は約5,000万ドル(丸めた値)で、ほぼ同じです。
割れるのは2027年です。市場の予想の平均は7,000万ドルほど(7人の平均を丸めた値)です。一方、会社は「二桁の四半期成長」を言っています。その下限の10%を1,600万ドルから機械的に積むと、約8,200万ドルになります。
これは正式な見通しではありません。「二桁」の言葉をそのまま計算に置いただけです。そして、この道筋を聞かれたときの答えがこの決算のいちばん慎重な一文でした。
通年は「決まったとは言えない」、損益分岐はまだ遠い場所にあります
2027年の成長のうち、どれだけが受注で裏づけられているのか。ある証券会社の質問に、最高経営責任者はこう答えました。
「通年がもう決まったとは言えません」
受注残が厚いと言いながら、割合は最後まで数字になりませんでした。同じ論点は前の四半期にも別の証券会社が聞いています。受注の顧客名とドルの金額も出ていません。2027年の売上の水準も、語られたのは「二桁」という言葉だけです。
特許の争いの見通しを聞かれた場面では、「前回の決算で話したことに委ねます」とだけ答えました。前回の説明会で本人が説明していたのは、ウルフスピードとルネサスに提訴されているという状況です。
赤字の行き先は定量的に語られました。これは今回の収穫です。
「粗利率50%なら、損益分岐点は(売上で)6,000万ドル台前半あたりになります」
今の四半期の営業費用が2,500万ドルで、それが3,000万ドル台前半になる前提の話なので、四半期の売上と読むのが自然です。10〜12月期の見通し1,600万ドルの約4倍です。質問した側も時期は聞かず、経営陣も言っていません。しかも粗利率50%超は「IVRが入れば」という条件つきで、そのIVRの立ち上がりは2028年後半以降です。つまり、この損益分岐の絵は、当面の転換点だけでは完成しません。
この決算の数字には、分けて読む箇所が4つあります。
- 営業費用の急増:10〜12月期は1,650万ドルから2,500万ドルへ。クラロスの取り込みと研究開発への追加投資によるものです。粗利率の見通し40.5%で計算すると、営業損失は約1,850万ドルに広がります
- 現金の減少:5億3,150万ドルに減ったのは、供給元の切り替えに備えた、受託製造大手TSMCのウエハーの積み増しが主因です。在庫は1,950万ドルから3,240万ドルへ増え、うち1,120万ドルは長期の扱いです。クラロスへの支払い後の現金は約4億500万ドルで、借金はありません
- +119%の見通し:10〜12月期の前年比ですが、前年同期が730万ドルと低かった効果が大きい数字です
- 前の四半期の巨額の損失:会計基準どおりの数字に、過去の合併に絡む現金の出ない費用が2億300万ドル入っていました。今回はありません
+119%の基数の低さは別として、今回の売上の伸びの中に、一度きりの追い風で嵩上げされた跡はありません。逆風を抱えたままの伸びで、ここは素直に数字どおりです。問題は売上の質より、規模と時期のほうにあります。
2028年の話の前に、10〜12月期の数字が来ます
今回の決算で確かめられたのは、「手放した事業の穴を、高出力の市場で埋めるところまで」です。AI基盤の3倍も、ネイティブ800ボルトも、IVRも、まだ言葉の段階です。
この読みが崩れる形は、はっきりしています。
- 10〜12月期の売上が、見通しの下限1,550万ドルを下回る
- 受注対出荷比が1を割る、または受注残が「2027年半ばまで」から短くなる
- AI基盤の比率が40%に届かない
逆に、言葉の側が本物だったと分かるのは、100万個の注文が「試験」ではなく量産の話として語られたときです。金額か顧客名が付けば、さらに一段進みます。
四半期売上2,000万ドルに届いていない会社が、80億ドルの市場を語っています。その距離を埋める材料は3ヶ月ごとにしか出てきません。今日の見立ても、次の説明会の言葉で書き直すことになります。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。