3ヶ月で売上が約1.5倍になった会社の財務責任者が、質疑応答でこう答えました。
「最初のスコーピオXのプラットフォームは、初期の展開の立ち上げの大部分を終えました。今後は大きな規模で寄与し続けます」
会社の名前はアステラ・ラボ(Astera Labs)です。AIの話題で名前が挙がるのは計算を担う半導体のほうですが、この会社が作っているのは、その計算用の半導体どうしをつなぐ通信の半導体です。スコーピオは、その主力のスイッチ製品の名前です。
■ アステラ・ラボの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月3日
- 売上は5億8,490万ドル、スコーピオが最大の製品になりました
- スコーピオは「なる」から「なった」へ、トーラスは量産前から出荷へ進みました
- 10〜12月期は7億4,000万ドルの見通し、通期の売上は市場の予想を超える水準です
- スコーピオXの次の山はいつか、会社は時期を答えませんでした
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※この記事で扱うのは、2026年11月3日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、編集部の予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストに説明し、質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。発言はそのまま記録に残ります。
過去最高の決算でした。それでも質疑応答では、今の数字より「この先、頭打ちにならないのか」が繰り返し聞かれました。
その前に——「スケールアップ用のスイッチ」って、何でしょう
「スイッチ」と聞くと、電気を入れたり切ったりする部品を思い浮かべると思います。ここで言うスイッチは違います。データの行き先を振り分ける、交通整理の半導体です。家庭のルーターや、LANケーブルを何本も挿す小さな箱の中でも、似た種類の仕事が行われています。
今のAIの計算は、1個の半導体では到底足りません。そこで、たくさんの計算用半導体を束ねて、1台の大きな計算機のように動かします。つなぎ方には2つの方向があります。
- スケールアウト=サーバーとサーバーを、ネットワークで横につなぐ
- スケールアップ=計算用半導体どうしを、1台の計算機の内側のように密につなぐ
会社にたとえると、前者は別のビルの支店に電話をかけること、後者は同じ机を囲んで話すことです。同じ机なら話は速く、待ち時間もほとんど出ません。計算用半導体は高価なので、待たせている時間がそのまま損になります。
💡XPU=AIの計算を担う半導体の総称。エヌビディアのGPUや、大手クラウド企業が自社開発するチップを含みます。
この仕組みが、今回の決算を左右しています。経営陣の説明では、この会社の製品の搭載額は、搭載の多いシステムでXPU1基あたり1,000ドルを超えています。つまり売上は、大きな顧客がXPUをどれだけ並べるかで大きく動きます。今回の急成長も、今回の質疑応答の緊張も、理由は同じです。
売上は5億8,490万ドル、スコーピオが最大の製品になりました
- 売上 5億8,490万ドル(前四半期比 +49%、前年同期比 +154%)。1ドル150円で計算すると約877億円で、過去最高です
- 調整後の一株利益 1.32ドル(前四半期比 +0.52ドル、+65%)。利益を株数で割った、1株あたりの利益です
- 調整後の営業利益率 44.7%(前四半期は39.1%)。売上のうち本業の利益として残った割合です
- 調整後の粗利率 72.4%(前四半期は73.7%)。売上から製造にかかった費用を引いて残った割合です
💡調整後=株式報酬などを除いて会社が示す数字(non-GAAP)。会計基準どおりの数字とは別物です。この説明会の損益の説明は、調整後の数字で行われました。
3ヶ月前に会社が出した売上の見通しは5億4,000万〜5億6,000万ドルでした。実績は、その中央の値を6%上回っています。営業活動で得た現金は1億7,920万ドルと過去最高で、現金と有価証券は13億8,000万ドルまで増えました。
中身の主役はスコーピオです。製品群全体の売上は年換算で10億ドルを超え、社内の順位も入れ替わりました。
💡年換算=その四半期のペースが1年続いた場合の金額。1年間に実際に売った金額ではありません。
スコーピオは「なる」から「なった」へ、トーラスは量産前から出荷へ進みました
この決算でいちばん手堅いのは、前回の説明会で言ったことが、順番に進んでいることです。
スコーピオの順位について。
3ヶ月前:「スコーピオは第3四半期に最大の製品群になると見ています。従来の想定より1四半期早い見通しです」
今回:「スコーピオは第3四半期に最大の製品群でした。スコーピオXシリーズの売上がPシリーズを追い越しました」
データセンター内の通信を担うトーラスについて。
3ヶ月前:「800ギガビットのケーブル向けに、トーラスのスマートケーブルモジュールの量産前の数量も出荷しました」
今回:「トーラスの800ギガビット製品は認定を終え、主要顧客へ数量を伴って出荷しています」
認定とは、顧客が製品を試験し、自社のシステムに使ってよいと認めることです。量産での採用の前に通る関門です。
メモリをつなぐレオについて。
3ヶ月前:「2027年に向けて、標準品とカスタム品のレオのメモリコントローラーを、米国の大手クラウド2社へ量産規模で出荷する見込みです」
今回:「大手クラウド2社を含む複数の顧客で認定を完了し、2027年半ばに量産出荷を立ち上げる見込みです」
レオについては、「認定完了」まで進んだ一方で、本格的な売上になるのはまだ先です。実績になったものと、まだ予定のものが、同じ説明の中に並んでいます。
これは新しい転換点というより、予告したことをやったという性質の変化です。良い変化ですが、驚きではありません。市場が今回気にしたのは、その先でした。
10〜12月期は7億4,000万ドルの見通し、通期の売上は市場の予想を超える水準です
会社が示した2026年10〜12月期の見通しは、次のとおりです。
- 売上 7億3,000万〜7億5,000万ドル(中央の7億4,000万ドルは約1,110億円。前四半期比 +27%)
- 調整後の一株利益 1.62〜1.66ドル
- 調整後の粗利率 約72%、調整後の営業利益率 約45%
💡アナリスト予想の平均(コンセンサスとも呼びます)=その会社を調べているアナリストたちの予想を平均した数字。会社の見通しが良くても、これに届かなければ期待外れと受け取られます。2026年通年の売上では19億1,000万ドルです。
1〜9月の実績に見通しの中央の値を足すと、2026年通年の売上は約20億3,000万ドルです。アナリスト予想の平均を約6%上回ります。予想が今回の発表を受けて書き換えられれば、この差は縮みます。
伸びの大きさは変わります。売上の増加額は、7〜9月期が約1億9,250万ドル、10〜12月期は見通しの中央で約1億5,510万ドルです。率だけでなく、金額でも前の四半期より小さい見通しです。 粗利率も73.7%、72.4%、約72%と少しずつ下がる方向です。
費用の面では、人員が前年から倍増し、開発に使うウェハやマスクの費用、好業績に連動する報酬も増えています。調整後の営業費用は7〜9月期の1億6,200万ドルから、10〜12月期には1億9,400万〜2億ドルへ増える見通しです。それでも売上の伸びのほうが大きく、調整後の営業利益率は約45%の見通しです。
スコーピオXの次の山はいつか、会社は時期を答えませんでした
ここがこの決算の未解決の部分です。
冒頭の発言には続きがあります。財務責任者は「大部分を終えた」の直後に、こう言っています。
「スコーピオXは、2027年を通じて、新しいプラットフォームと追加の顧客が上乗せされることで、成長を続けると見ています」
減ると言ったわけではありません。ただ、アナリストは別々に2度、同じ心配を聞きました。1人目は、UA-Link(計算用半導体どうしをつなぐ新しい業界規格)に移るまでに頭打ちがあるのではないかと尋ねました。もう1人の聞き方は、もっと踏み込んでいます。
「主要顧客の現行世代の構築は第1四半期ごろにピークを迎え、次の世代は2028年近くまで本格的に立ち上がらない、という見方が一部にあります」
これはアナリストが紹介した見方で、会社の説明ではありません。財務責任者の答えはこうでした。
「当然ながら、最終顧客の量産の立ち上がりについてはコメントしません」
顧客の計画を明かせない事情はあるでしょう。続けて、新しいプラットフォームと追加の顧客が上乗せされるとも話しています。それでも、この見方を肯定も否定もしなかったことは残ります。別のアナリストが2027年前半に意味のある立ち上げが何件あるかを尋ねた場面でも、件数は出ませんでした。出てきたのは、2社目の大手クラウドは量産前の段階で2027年に売上を生むはず、追加の顧客は2027年後半に寄与する、という順番の説明です。
言い方が変わった、あるいは今回出てこなかった2027年の話も3つあります。
- カスタム製品:前回の「初回出荷は2027年に始まる」が、今回は「初回出荷は2027年後半、量産は2028年」に。2027年の中でも後ろ側と明示されました
- 光接続の最初の案件:前回の「大手AIプラットフォーム企業との最初の案件は2027年に量産に入る見込み」に、今回は触れませんでした。語られたのは別の光製品(近接実装光学向けの部品)の「2027年後半に最初の売上」です
- UA-Link:前回の「2027年に対応スイッチを届ける予定どおり」を、今回は言い直しませんでした。時期を聞かれて、答えは「大きくは変わっていません」でした
どれも「遅れた」「やめた」と会社が言ったわけではありません。言わなかった、または幅を絞って言った、という事実です。
説明会の中で、税や為替、買収で売上や利益を押し上げたという話はありませんでした。数字を飾る種類の一時要因は見当たりません。 あえて一時的と言えるのは、量産に入っている主要顧客の立ち上げが、この四半期の伸びを牽引したことのほうです。会社はその顧客の名前を明かしていません。
搭載額を積み上げる計画は、2027年後半に新しい売上が重なる形です
頭打ちの心配に対する会社の答えは、1基あたりの搭載額を増やし、売り先も増やすことです。
経営陣の説明はこうです。いまの搭載の多いシステムで、XPU1基あたりの搭載額は1,000ドル超。次の世代の自社製品では、スイッチだけで1,000ドル超を上乗せすることを目指していて、これが1回目の倍増にあたります。その先は、光の部品、レオ、規模の大きくなる計算クラスター、速くなるデータ速度を積み上げて、「XPUの世代ごとに搭載額を倍にする」と言っています。
時期を並べると、2027年の形が見えてきます。
- 2027年:2社目の大手クラウドのスコーピオXが売上に。ラック単位の設計図「オリオン」もパートナー経由で売上を生み始める予定(1ラック80GPUあたりの搭載額は約10万ドルと推定)
- 2027年半ば:レオの量産出荷
- 2027年後半:追加の顧客のスコーピオX、光の部品(XPU1基あたり数百ドル)の最初の売上
- 2027年後半〜2028年:カスタム製品(10件を超える案件)の初回出荷と量産
💡オリオン=計算用半導体のメーカーを問わない、ラック丸ごとの参照設計。基板とソフトウェアも合わせて提供します。
新しい材料は多いです。並べてみて目につくのは、新しい売上が2027年の後ろ側に寄っていることです。2027年前半は、主要顧客の最初のプラットフォームが横ばいに近づき、新しい売上が下期から積み上がるまでの谷になる可能性があります。これは経営陣の発言ではなく、発言を時期順に並べて読める形です。逆に、既存の顧客が新しいプラットフォームへ採用を広げているという説明どおりに進めば、谷は浅くて済みます。
長い目で見た数字として、会社はスケールアップ用の光接続の市場を2030年に400億ドルと見積もっています。これは会社自身の推定です。オリオンとカスタム、光の部品について、金額つきの受注の話は今回出ていません。
「大部分を終えた」の先は、1〜3月期の見通しと2社目の大手クラウドで見えてきます
足元の数字は本物で、未確定なのは2027年前半の形です。答え合わせの場所は、はっきりしています。
- 10〜12月期の実績と、2027年1〜3月期の見通し。 売上が前四半期比で横ばいや減少になり、経営陣が主要顧客の出荷の減少を認めれば、アナリストが紹介した心配は当たっていたことになります
- 2社目の大手クラウド。 2027年の間に量産前から量産へ移らなければ、「売り先を増やす」という説明の土台が揺らぎます
- オリオンの数字。 収益への影響は、次の四半期の説明会で、より具体的なデータを示す見込みだと述べました。出てくるかどうかは、そこで確かめられます
逆に、1〜3月期の見通しで伸びが続き、新しいプラットフォームの寄与を実数で語り始めれば、今回の心配は早すぎたことになります。
前回の「最大の製品群になる」は、今回「最大の製品群でした」に変わりました。今回の「大部分を終えた」は、次の説明会でどんな言葉に変わるのか。そこを確かめます。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。