3ヶ月前、AMDは2027年の会社全体の売上について、数字を出していませんでした。
今回は出しました。80%超の増収です。ところが同じ説明会の質疑応答で、財務責任者は来年の粗利率を聞かれて、こう答えています。
「いまの時点で、その見通しは実のところ持っていません」
AMDは、データセンターとパソコン向けの半導体を設計している会社です。売上の64%がすでにデータセンターから来ています。
■ AMDの決算説明会の内容(要点)
- 次回の決算:2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)
- 今回:2026年7〜9月期・決算説明会は2026年11月3日
- AIの主役はGPUのはずなのに、来年2倍と言われたのはCPUでした
- 過去最大の四半期で、データセンターは1年前の47%から64%へ
- 「70%超」が「2倍」に、供給は「上振れの余地」から「需要が供給を上回っている」へ
- 来年の約940億ドルは、市場の平均より上にあります
日足チャート(価格/出来高/RSI(2)/ニュースセンチ/RSランク)。毎日自動更新。
※この記事で扱うのは、2026年11月3日に行われた、2026年7〜9月期(第3四半期)の決算説明会です。会社の開示と、その場での経営陣の発言に基づく事実で、編集部の予測ではありません。次回の決算は2027年2月上旬ごろの見込み(会社の正式発表待ち)です。
💡決算説明会=決算発表の後に、経営陣が投資家やアナリストの質問に答える電話会議(カンファレンスコールとも呼びます)。この記事の数字は、断りが無ければ会社が「調整後」と呼ぶもの(non-GAAP)です。
AIの主役はGPUのはずなのに、来年2倍と言われたのはCPUでした
AI向けの半導体と聞くと、GPUを思い浮かべる方が多いと思います。ですが今回、AMDが来年の伸びをいちばんはっきり数字で語ったのは、もう一方のCPUでした。
2つは得意なことが違います。
CPUは現場監督です。段取りを判断し、次に何をするかを決めて、順番に片付けていきます。GPUは大人数の作業班です。難しい判断はしない代わりに、同じ計算を一斉にこなします。パソコンの売り場に並ぶ「Core」や「Ryzen」がCPU、ゲーム用パソコンに挿すグラフィックボードの中身がGPUです。AIに言葉を覚えさせたり、答えを出させたりする計算は作業班の仕事なので、話題はGPUに集まってきました。
変わってきたのは、AIが一度答えて終わりではなくなったことです。人の代わりに調べ物をし、別のシステムを開き、手続きを進めるソフトが出てきました。「AIエージェント」と呼ばれるものです。CEOの説明はこうです。
「これらのエージェントは、複数のアプリケーションや企業のシステムをまたいで、休みなく並行して働きます。アクセラレーターの需要に上乗せされると同時に、CPUの需要を大幅に増やしています」
💡アクセラレーター=GPUのように、特定の計算を速くする半導体。
作業班の仕事が増えるだけでなく、段取りを決める現場監督の仕事も増える、という話です。AMDのサーバー向けCPUは「EPYC」、データセンター向けGPUは「Instinct」という名前で、最新の世代はそれぞれ「Venice」「MI450シリーズ(MI455Xなど)」です。もう1つ、GPUを組み込んだサーバーを棚ごと組み上げた製品が「Helios」。部品ではなく、組み上がったラック一式として売るものです。GPUとHeliosの売上を、AMDは「データセンターAI」と呼んでいます。
来年の数字を読むときは、CPUとGPUを分けておくと迷いません。CPUの見通しには「2倍」という数字がありました。GPUの見通しは、それより大きいのに言い方がぼんやりしています。
過去最大の四半期で、データセンターは1年前の47%から64%へ
売上は過去最大で、データセンターの比率は1年前の47%から64%へ上がりました。
- 売上 134億ドル(前年同期比 +45%・1ドル150円で約2兆円)。会社の見通し(130億ドル±3億ドル)の上限を超えました
- 調整後の一株利益 2.09ドル(+74%)。会計基準どおりの一株利益は 1.46ドル
- データセンター部門の売上 85億ドル(+97%)。部門の営業利益率は34%(1年前は25%)
- 粗利率 56%(1.9ポイント改善)、営業利益 39億ドル(+75%)
サーバー向けCPUは、クラウド向けも企業向けも、それぞれ前年の2倍を超えました。2026年後半のサーバー向けCPUについて3ヶ月前に出していた「80%超」という見通しを、会社自身の言葉で「大きく上回りました」。
ほかの部門は向きが分かれています。組み込み向けは11億ドルで+29%、4四半期続けて伸びが加速しました。パソコン向けは29億ドルで+7%。家庭用ゲーム機向けが減ったゲーム部門は7億7,300万ドルで−40%です。
💡粗利率=売上から製造の原価を引いて残る割合。
💡調整後=会社が一時的、または現金の動きを伴わないと考える費用を除いた数字。今回の1.46ドルのほうには、後の節で書くワラントの費用11億ドルが含まれています。
「70%超」が「2倍」に、供給は「上振れの余地」から「需要が供給を上回っている」へ
3ヶ月で、言い方が3か所変わりました。
来年のCPUについて。
3ヶ月前:「サーバー売上は(中略)2027年通年で70%超の成長を見込みます。それも、ずっと高い土台からの成長です」
今回:「2027年のサーバー売上は、前年比で2倍になると見込んでいます。データセンターAIの売上は、90日前に見通したよりもさらに速く伸びると見込んでいます」
会社全体について。 3ヶ月前は、長期の財務目標の話でした。
3ヶ月前:「売上は、従来の目標である35%超を大きく上回って伸びると見込んでいます」
今回:「現時点の見通しに基づくと、2027年の売上は80%超の成長を見込んでいます。昨年11月のアナリスト向け説明会で示した長期財務モデルの2倍を超える水準です」
長期の目標を上回るという言い方から、来年1年の具体的な数字へ。ここが今回いちばん大きな変化です。2027年にはデータセンターが売上の80%超を占めるとも言いました。
GPUの側だけは、言い方がほとんど動いていません。3ヶ月前は「100%を大きく超える」、今回は「2倍を大きく超える」。アナリストに「データセンターAIについてはあまり具体的でない」と指摘されても、CEOは「目安として受け取ってください」と答えました。「90日前に見通したよりもさらに速く」の中身は、数字になっていません。
供給について。
3ヶ月前:「お話ししてきた見通しを十分に上回れるだけの供給があります。上振れの余地もあります」
今回:「需要が供給を上回っているのは事実です」
3ヶ月前は、2027年に見通せる導入規模を聞かれ、データセンターAIの立ち上げを語る流れの中の言葉でした。今回の問いは、2027年の80%超の増収を供給で裏付けられるかです。問いは同じではありませんが、来年の伸びを決めるものが顧客の準備から作れる量の話へ寄ってきました。CEOは「さらに供給を確保した」とも言っていて、来年の見通しの引き上げは、その確保の上に乗っています。
Heliosについては、3ヶ月前の「Heliosへの顧客の引き合いは非常に強く、当初の予想を上回っています」に対して、今回の冒頭は「Heliosの生産は計画どおり立ち上がっています」でした。前者は顧客の話、後者は生産の話で、同じものを比べてはいません。財務責任者は、データセンターAIの事業は「7〜9月期に入る時点の想定より、実際には良い」と話しています。
来年の約940億ドルは、市場の平均より上にあります
次の四半期の見通しは売上170億ドル±3%で、前年同期比約+66%、前期比約+27%です。内訳が極端です。データセンターが前期比で約50%増える一方、パソコンとゲームの部門は20%超の減少を見込んでいます。
1〜9月の実績に、10〜12月期の見通しの中央値170億ドルを足すと、今年の売上は約522億ドルになります。これに80%超を掛けると、来年は約940億ドル超(1ドル150円で約14兆円)です。
💡市場の予想=その会社を調べているアナリストの予想の平均。
今回の決算より前の集計で、2027年の売上の予想平均は約897億ドル(51人)でした。会社の下限の計算のほうが約5%上にあります。今年の分は、予想平均510億ドルに対して約2%上です。
差は驚くほど大きくありません。周りはすでに相当の伸びを織り込んでいて、会社がそれを少し超える数字を出した、という位置です。80%「超」なので、見通しの中央値で計算する限り、940億ドルは会社の言葉では床にあたります。
粗利率、1ギガワットの売上、株数の増え方。どれも数字がありません
売上の見通しがはっきりした分、はっきりしていないものが目立ちます。
来年の粗利率です。 2人のアナリストが別々に聞きました。1人目は「55%を下限として守れるか」、2人目は「来年の入口と出口の水準」です。下限の数字は出ず、2人目への答えが冒頭の言葉でした。直前の1文と合わせると、こうです。
「この2つの事業の構成が、会社の粗利率を決めます。いまの時点で、その見通しは実のところ持っていません」
「2つの事業」はGPUとCPUです。GPUは会社平均より粗利率が少し低いと、財務責任者が同じ説明会で認めています。10〜12月期の見通しは約55%で、今回の56%から下がります。財務責任者はこの10〜12月期が「良い目安になる」と言いました。CPUは2倍、GPUはそれ以上と見込むのに、その比率は読めない。80%超を語ったCEOの「現時点の見通し」と、財務責任者の「その見通しは実のところ持っていません」は、英語ではどちらも同じ visibility という語でした。
3ヶ月前にはあった数字が、3つ消えています。
- Anthropicが「最大2ギガワット」導入するという顧客別の規模。今回、顧客別のギガワット数はありません(会社側からこの単位が出たのは、次世代製品の話の1回だけです)
- 1ギガワットあたりの売上。3ヶ月前は「2桁ビリオンドルと言ってきました。まだその範囲にいます」(100億ドル以上の意味)。今回、150億〜200億ドルの水準を問われて、CEOはメモリーなどの値上がりを顧客と分担できるよう取り組んでいると答え、この金額には触れませんでした
- 「戦略的な期間の中で、年間の一株利益20ドルという目標を大きく超える」という言葉。今回は出てきません
💡ギガワット=データセンターの規模を電力で表す単位。原子炉1基の出力がだいたい1ギガワットです。
顧客のデータセンターが間に合うのかも聞かれました。「主要顧客の資金調達と物理的な設備は、約3ギガワットの導入を支えられるのか」という問いです。CEOは、どのデータセンターのどの場所に入るかまで把握していて見通しは良いと答えました。ただ、約3ギガワットという数字は確認せず、資金調達そのものにも触れていません。「主要なパートナーには選択的に投資している」とは言いました。AMD自身がお金を出す場面がある、ということです。
ワラントの話もあります。 AMDは顧客との契約で、条件を満たせば自社の株を受け取れる権利を渡しています。今回からその影響が決算に出始めました。
💡ワラント=決められた条件を満たすと、あらかじめ決めた内容で株を受け取れる権利。
- 売上:差し引いた純額で報告済み。134億ドルも170億ドルも、減らした後の数字です
- 費用:評価の変動で11億ドルの費用が出ました。現金は出ません。会計基準の利益にだけ響き、調整後の利益には入りません。主な原因は自社の株価の上昇と、条件を満たす確率の見積もりの変更で、財務責任者はこの費用が今後増えると見ています
- 株数:出荷などの条件を満たしたときに増えます。10〜12月期には影響なし。その先の時期は「2027年に示す」とのことです
一株利益が調整後で2.09ドルと言うとき、この株数の増加も、11億ドルの費用も入っていません。 来年の一株利益を語るには、まだ部品が足りません。
一方で、数字を飾っているものはこの説明会の範囲では見当たりませんでした。ワラントは売上を減らし、費用を増やす側に働いています。下がっているパソコンとゲーム機は循環の話として説明されていて、2027年のパソコン市場は台数で2桁%の減少を前提に置いています。
現金は別です。在庫が3ヶ月で約30億ドル増えて115億ドルになり、フリーキャッシュフローは前の四半期の16億ドルから5億5,400万ドルへ減りました。来年の分を先に仕入れている形で、会社はこの積み増しを続けると言っています。手元資金は158億ドル、借入は71億ドルです。
MI455とVeniceが売上に初めて乗ったのが、この四半期でした
GPUの側。 「第3四半期は、MI455とHeliosのラックを売上として初めて出荷した四半期でした」とCEOは言いました。Anthropic、Meta、Microsoft、OpenAI、Oracleが最初のラックを稼働させ、10〜12月期にはデータセンターAIの売上が金額でサーバーCPUを初めて上回る見込みです。財務責任者の言葉では「はるかに上」です。CEOは2027年を通じて立ち上げが続くと言っています。
CPUの側。 Veniceの売上計上も同じ第3四半期に始まりました。各メーカーが用意すると約束した搭載機種は240超で、前の世代より20%多い数です。OpenAIは自社開発の半導体を動かす親役のCPUに、AMDの前世代EPYCを選びました。来年の2倍について問われたCEOの答えは、値上げの話ではありませんでした。
「売上の伸びの大半は、出荷数とコア数によるもので、販売単価によるものは少なめです。ただ、コア数が増えるぶんの単価の上昇はあります」
新世代のGPUと、数で伸びるCPU。理由は別々ですが、どちらも顧客が増設の計画を広げた結果として語られています。CEOの言葉では、サーバーの需要の広がりは「実質的にすべての顧客にわたる」ものです。
データセンターの外では、組み込み向けが今年180億ドル超のデザインウィンを見込んでいて、3年連続の記録になる予定です。来年はこちらも伸びが加速すると言っています。
💡デザインウィン=顧客の製品に自社の半導体の採用が決まること。売上になるのは数年かけてです。
データセンター約127億ドルと粗利率約55%、3ヶ月後に最初の答えが出ます
今回の見通しの一部は、3ヶ月後の決算で答えが出ます。
- データセンターの売上が前期比で約50%増(約127億ドル)に届くか。売上の話はここで最初に試されます
- 粗利率が約55%で着地するか。GPUが初めてCPUを上回る四半期なので、財務責任者の言う「目安」の中身がここで見えます
- 2027年のサーバーの「2倍」が言葉として残っているか。Heliosの展開に遅れが出て、その説明に顧客の電力や建屋が出てきたら、CEOの「見通しは良い」が問われます
逆に、ギガワットの数字や20ドルの目標が戻ってきたら、今回の沈黙はただの言い方の問題だったことになります。
2027年の80%超も2倍も、今の時点では見通しで、まだ1ドルも売上になっていません。ここに書いたのは11月3日の説明会までに分かっていることです。
売上の数字は出ました。粗利率と株数は、まだ出ていません。どちらが先に埋まるのか、同じ問いを持って次の説明会も読みます。
※本記事は、決算説明会での経営陣の発言と公表数値を自分の言葉で整理したものです。特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。